最初の仕事は“くじ引き”?〜キャリアの第一歩に迷うあなたへ〜
「最初の仕事はくじ引き」――この印象的な言葉は、経営学の巨人ピーター・F・ドラッカー氏が残した名言です。はじめてこの言葉を知ったとき、私は「なんて本質を突いた表現なんだろう」と深く共感したのを覚えています。
最初の仕事は“運”で決まる?
今や、求人情報サイトや労働条件通知書などで、給与・勤務時間・休日などの"労働条件"は事前に詳しく確認できます。
しかし、その仕事が本当に自分に合っているかどうか、やりがいを感じられるか、成長できるか――そういった"仕事の中身"は、実際に働いてみなければ分からないものです。
「これが自分の天職だ!」と信じて始めた仕事が思ったほど楽しくなかったり、逆に気乗りせずに始めた仕事が、後になって大きなやりがいに変わったりすることは、珍しいことではありません。
だからこそ、最初の仕事は“くじ引き”のようなものなのです。
採用担当として伝えたい「どこに入っても大差ない」
私はこれまで何度も新卒採用の面接を担当してきました。
その中で、「どの企業に就職しようか迷っている」という学生に対して、私は正直にこう伝えるようにしています。
「どの会社を選んでも、大きな差はないと思いますよ」
この言葉に驚かれる学生も多いです。
企業側の人間が「うちが一番合ってる!」と熱烈にアピールしてくると期待していたのでしょう。
でも、これは誠実なアドバイスです。
就職活動は確かに重要な選択ですが、どんなに情報を集めても、その会社や職種が自分に合っているかは、結局やってみないとわかりません。
そのため、私は面接の終わりに「これは採用とは関係のない、個人的なアドバイスだけど…」と前置きして、この“くじ引き”の話をします。すると、多くの学生が納得し、安心した表情を浮かべてくれます。
結果として、当社を選んでくれた学生も、他社に行った学生も半々。
でも、どちらの選択も間違いではないと思っています。
私自身の“最初の仕事”はあたりだった
振り返れば、私の最初の仕事は幸運にも“あたり”でした。
厳しいノルマと昼夜逆転の勤務体制には苦労しましたが、それ以上に大きなやりがいと成長を実感できた仕事でした。
お客様対応の基本を学び、チームワークの大切さを知り、多くの実践的な研修も受けました。
働くことに対してプライドを持てるようになり、今でも「社会人としての土台はあの時期に築かれた」と感じています。
ただ、結婚・出産・家族との生活を考える中で、長期的に続けるのは難しいと判断し、自ら転職を決意しました。
「最初の仕事はくじ引き」から見えるキャリアの本質
この言葉の背景には、キャリア形成における「不確実性」があります。
最初の仕事は、自分の適性も経験も未知の状態で選ぶもの。
だからこそ“くじ引き”になるのです。
しかし、1社目で得られる経験は、その後のキャリアにとって非常に貴重な“材料”になります。
たとえば、自分がどんな業務にやりがいを感じるのか、どんな人と働きやすいのか、どんな働き方が合っているのかといった「自己理解」が深まるのです。
その経験をもとに、2社目以降はより“くじ”の精度が高くなります。
つまり、「自分に合う仕事を選ぶ目」が養われるのです。
キャリアの正解は一つじゃない
年齢を重ねるほど、「自分に向いている仕事って何だろう」「自分の強みってなんだろう」と迷いが増すこともあるでしょう。私自身、今でも悩むことがあります。
若い頃は視野が狭かった分、「これしかない!」と突き進むことができました。しかし、経験とともに選択肢が増えると、むしろ悩みやすくなるものです。
でもそれは悪いことではありません。今の時代は転職も副業も当たり前。働き方が多様化しているからこそ、「何をしたいか」を自分なりに考え続けることが、よりよいキャリアを築く第一歩になるのです。
自分と向き合う時間の大切さ
自分の進むべき道に悩んだときは、じっくり時間をかけて自分と向き合ってみてください。スマホを置いて、1人になれる環境をつくり、静かに自分に問いかけてみましょう。
「自分が本当にやりたいことは何だろう?」 「どんな仕事なら時間を忘れて夢中になれるだろう?」 「今の環境で、自分はどんな価値を提供できているだろう?」
このような問いかけが、次のステップに進むヒントになります。
最後に――くじ引きの結果をどう活かすか
「最初の仕事はくじ引き」という言葉は、決してネガティブな意味ではありません。むしろ、「だからこそ、やってみることが大切なんだ」と私たちに教えてくれているのです。
最初の仕事が“あたり”であっても“はずれ”であっても、それは決して無駄にはなりません。どんな経験も、あなたのキャリアにとっての貴重な“財産”になります。
「自分に合った仕事がわからない」と感じている方も、「今の仕事が楽しくない」と悩んでいる方も、まずはその“くじ”をしっかり引ききってみること。その先に、新しい可能性が広がっているかもしれません。
あなたのキャリアが、あなたらしい道に育っていくことを心から願っています。