労災について①

今回は、労災について書いてみたいと思います。

人事担当の方であれば馴染みがあるかもしれませんが、一般の社員の方であれば聞いたことがあるけど適用されたことはない…という方が多いのではないか、と思います。

しかし、何があるかわからない今の時代、労働者をしっかりと守ってくれるこの素晴らしい制度の理解を深めておくことは、決して無駄ではありません。

労災の根拠条文

お仕事をしているときに、ケガや病気を負ってしまった。

その場合、そのケガや病気の補償の責任は誰にあるのか。

労働基準法には、「第八章 災害補償」という章があり、下記のような条文が定められています。

(療養補償)
第七十五条 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。

太字にした部分にあるとおり、お仕事をしているときに負ったケガや病気に対する補償の責任は「使用者にある」とされています。

使用者が労働者と契約し、その管理下・その指揮に従わせて労働者を業務に従事させるので、この責任はある意味当然のことと考えます。

しかし、世の中のすべての使用者が、法律で求められている義務を果たすことができるのでしょうか。

もう一つ条文をご紹介します。

(遺族補償)
第七十九条 労働者が業務上死亡した場合においては、使用者は、遺族に対して、平均賃金の千日分の遺族補償を行わなければならない。

仮に、平均賃金が1万円とした場合、遺族補償の額は、1万円 × 千日分 = 1000万円、となります。

遺族の立場に立ってみれば1000万円でも足りない!という気持ちになりそうですが、使用者の立場では「1000万円」の補償というのは非常に重たいものになります。

特に、従業員が数名~数十名の零細企業ともなれば、その補償をすることで会社が潰れてしまう…という可能性もあります。

だからといって、補償がされない・不十分であれば、遺族にとっても辛い状況となっていまいます。

そこで登場するのが「労災」、正規名称は「労働者災害補償保険法」となります。

もう一つ労基法の条文を確認しましょう。

(他の法律との関係)
第八十四条 この法律に規定する災害補償の事由について、労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)又は厚生労働省令で指定する法令に基づいてこの法律の災害補償に相当する給付が行なわれるべきものである場合においては、使用者は、補償の責を免れる。

上記太字の部分にあるとおり、「労災法の補償が行われる場合は、使用者の労基法上の補償の義務は免除される」こととなります。

「労働者災害補償保険法」の「保険」は、「労働者に対する保険」と思われている方が多いですが、上記の根拠条文に加え、雇用保険や社会保険と異なり労働者が保険料を負担せずに、使用者のみが労災保険料を支払っていることからわかる通り、労災は「使用者に対する保険」です。

まずは、その点をしっかりとおさえておきましょう!

労災の基本的なポイント

対象

労災の補償対象はもちろん、「労働者」です。

したがって、事業主はもちろんのこと、取締役のような社員ではない身分の方は対象外となります。

よく「役員は対象外」と説明している書籍やネット記事がありますが、中には従業員の身分を有しながら役員と呼ばれている役職についているケースもありますので、あまり正確ではないと思っています。

大切なのは「会社との雇用関係の有無」です。

ちなみに、私の以前の勤め先では、このように労災の対象ではない偉い立場の方を対象にした、民間の傷害保険に加入してもらい、労災と同じような位置づけで補償の仕組みを整えていました。

保険料

先ほど記載したとおり、労働者の保険料負担はなく、事業主の負担のみとなります。

保険料は、労災の対象となる労働者に対して支払われた1年間の賃金の総額をベースとします。

保険料率は一律ではなく、業務内容的にケガや病気につながりやすい事業は率が高く、そうでない事業は率が低い、傾斜設定がされています。

この記事の執筆時点(令和7年6月)では、
・最も高い保険料率…鉱業(金属鉱業、非金属鉱業(石灰石鉱業又はドロマイト鉱業を除く。)又は石炭鉱業)で、「88‰」
・最も低い保険料率…金融業、保険業又は不動産業/通信業、放送業、新聞業又は出版業/計量器、光学機械、時計等製造業(電気機械器具製造業を除く。)で、「2.5‰」となっています。

ちなみに、「‰」は「パーミル」と読み、「1000分の1」を表す単位であることを補足しておきます。

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