仕事上の「罰金」は許されるのか?

某コンビニの罰金に関するニュース

数年前のニュースで、とある有名コンビニエンスストアのフランチャイズ加盟店の経営者が、アルバイト店員が急に欠席した場合に罰金を支払わせる契約をしていたとして、労働基準法違反で書類送検される、という事件を報じていました。

法的な知識がある方であれば、「あ、あの法律・条文に反したからかな」と、イメージできると思います。

しかし、一般の方であれば、「ちょっとアルバイトには酷だけど、働いているからにはいい加減なことをしてもらっても困るし、別にいいんじゃないかな」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

私も以前に、アルバイトの方々のシフトを組む業務をしていたことがありますので、個々の希望に合わせてシフトを組むことの大変さや、突然アルバイトの方の都合が悪くなり、シフトに穴が開いてしまったときの絶望感は、身を持って理解しています。

かと言ってこの経営者を擁護する気持ちはありません。

法律は法律、ルールはルールです。

ということで、今回は仕事上の「罰金」について、法律の定めの説明をしていきたいと思います。

仕事上の「罰金」に関する法律の定め

それでは、仕事上の「罰金」に関する法律の定めを確認していきましょう。

(賠償予定の禁止)
第十六条  使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

労働基準法

労働基準法には、上記のような定めがあり、前述の書類送検はこの条文を根拠として行なわれたものになります。

「罰金」という言葉ではなく、「違約金」という言葉が使われていることがわかります。

上記の定めの趣旨は、「前近代的な労働関係を払拭するため」とよく言われています。

労働者が、シフト勤務をすっぽかすなど、約束したとおりの仕事をしてくれない(固く言えば、「労働契約を履行しない」)場合に違約金や損害賠償額を予定する(1回シフトすっぽかしたら1万円の罰金、などのように)と、どうなるでしょうか。

例えば違約金や損害賠償の金額が多額だった場合に、その違約金・損害賠償金を支払い終えるまで、その労働契約を解除する(アルバイトをやめる)ことができないおそれがあるため、不当に労働者を拘束することが懸念されます。

本来、最上位法規である「日本国憲法」にて、労働者には「職業選択の自由」が保障されていますので、このように不当に労働者を拘束することはしてはいけません。

「損害賠償を予定する契約」と「損害賠償『額』を予定する契約」の違い

損害賠償についてですが、条文には、「損害賠償『額』を予定する契約」をしてはならない、としているのであって、損害賠償をさせる契約をしてはいけないとしていません。

もう少し分かりやすく説明します。

【損害賠償を予定する契約】
労働者が社用車をぶつけて修理が必要な状態になったときに、労働者にその修理代金にあたる損害賠償をさせる契約を締結する
→ OK

【損害賠償『額』を予定する契約】
労働者が社用車をぶつけて修理が必要な状態になったときに、修理代金の多寡に関わらず、一律50万円を賠償させる契約を締結する
→ NG

なにも、実損害額を賠償させることまで禁止しているわけではない、ということに注意が必要です。

その他の重要な「労働者の不当な拘束を禁止する」ルール

今回のメインテーマである、「賠償予定の禁止」以外にも、労働基準法には「労働者の不当な拘束を禁止する」ルールがありますので、ご紹介します。

(強制労働の禁止)
第五条  使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。

労働基準法

(前借金相殺の禁止)
第十七条  使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。

労働基準法

前者の第五条は、そのものずばり「不当に労働を行なわせる」ことを禁じています

蛇足ですが、第五条違反は、労働基準法に定められている罰則の中でもっとも重い以下の定めの罰則が適用されることになります。

第百十七条  第五条の規定に違反した者は、これを一年以上十年以下の懲役又は二十万円以上三百万円以下の罰金に処する。

労働基準法

第十七条も、予め貸し付けているお金などの返済分に賃金を充当することによって、労働者が働かざるをえない状況を作り出すことを禁止しています。

また、「罰金」という観点に立つと、労働基準法にはこのような規定もあります。

(制裁規定の制限)
第九十一条  就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。

労働基準法

これは、いわゆる「懲戒」などにより減給をする場合の、上限基準を定めた規定になります。

いくら懲戒事由に該当するような悪いことをしたとしても、その労働者の生活を脅かすレベルの減給をすることができないようにしています

会社側と労働者側…もちろん立場が弱いのは労働者側ですので、法律でこのように制限をかけることによって、労働者の生活を保護しています。

調べてみると、冒頭のコンビニの事件では、その月のお給料の半額弱を罰金として差し引いていたので、この点でも論外です。

さらに触れると、「罰金として差し引いて」と表現しましたが、この行為自体が賃金支払い五原則のうち「賃金全額払いの原則」に該当することになりますので、労働基準法のあらゆる規定を二重にも三重にも破る、いけない対応をしてしまった事件なのです。

最後に

このような違法な対応をする企業が一つでも減ること、そして、学生アルバイトを含めたすべての働く人たちが「ワーキングリテラシー」を身につけ、今回のようなケースが生じた場合に、泣き寝入りするのではなく、しっかりと会社の対応を指摘し、毅然とした態度で立ち向かえるようになってほしいな…と思っています。

ここまで書いてふと思いましたが、ニュースやネットの記事で書かれている「罰金」という表現は、受けて側にとってイメージがしやすいので、その点では良いのですが、罰金の正しい用語の定義は「刑法上、国が国民に課す制裁金」であり、私人間では使いません。

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