就業規則について② 制裁規定の制限と労働協約との関係
就業規則は、会社が従業員との間でルールを明確にするためにとても大切な文書です。
中でも「制裁規定」や「労働協約との関係」については、正しく理解しておかないと、会社側も労働者側もトラブルに巻き込まれる可能性があります。
この記事では、「就業規則における制裁の制限」および「労働協約との優先関係」について、法律に詳しくない方にもわかりやすく解説します。
減給の制裁は法律で制限されている
就業規則では、従業員が会社のルールを守らなかった場合に「制裁(ペナルティ)」を設けることができます。
よくあるのは「始業時間に遅れた場合」や「業務上のミス」などに対して、注意や減給といった処分を行うケースです。
ですが、こうした制裁が過剰になると、従業員の生活に大きな影響を与えかねません。
そこで、労働基準法では「減給の制裁」について明確な上限を設けています。
【労働基準法 第91条】
就業規則で労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、
- 一回の額が平均賃金の一日分の半額を超えてはならず、
- 総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない。
この条文には、2つの重要なポイントがあります。
減給の制限ポイント
- ① 一回の減給額の上限:平均賃金の1日分の半額まで
- ② 1カ月における合計減給額の上限:その月の給与総額の10%まで
【具体例でわかりやすく解説】
飲食店で「お客様からクレームを受けた場合、1回につき3,000円の罰金を科す」というルールがあったとしましょう。
この場合、店員Aさん(平均賃金:1日10,000円、月給:30万円)に対して、以下のケースを考えてみます。
ケース①:1日で2回クレームを受けた場合
3,000円 × 2回 = 6,000円 → しかし、1回あたりの減給上限は 5,000円(10,000円の半額) なので、減給額は 5,000円 に制限されます。
ケース②:1か月で15回クレームを受けた場合
3,000円 × 15回 = 45,000円 → しかし、月の減給上限は 30,000円(300,000円の10%) なので、減給額は 30,000円 に制限されます。
このように、たとえ就業規則にペナルティを定めていたとしても、法律で上限が決められているため、無制限に減給することはできません。
就業規則と労働協約の優先順位は?
次に、「就業規則と労働協約、どちらが優先されるのか?」という点を見ていきましょう。
【労働基準法 第92条】
就業規則は、法令やその事業場に適用される労働協約に反してはならない。
つまり、労働協約 > 就業規則 という優先関係があるということです。
そもそも労働協約とは?
「労働協約」とは、会社と労働組合の間で交わされる正式な契約で、労働条件や就業環境について定めたものです。
労働組合法の第14条では、次のように定義されています。
【労働組合法 第14条】
労働組合と使用者の間の労働協約は、書面にし、両者が署名または記名押印することで効力が発生する。
この労働協約は、労使双方の合意に基づいた「契約」です。
そのため、会社が一方的に作成・変更できる「就業規則」よりも、労働条件に関して強い効力を持ちます。
具体例:就業規則より労働協約が優先されるケース
たとえば、就業規則で「退職金は支給しない」と定めていても、労働協約で「勤続10年以上の従業員には退職金を支給する」とされていれば、労働協約の内容が優先されます。
労働協約のメリット
- 労働者の権利をより確実に保護できる
- 労働条件の変更に歯止めをかけられる
- 就業規則より強制力がある
就業規則の整備と見直しは専門家に相談を
制裁規定や労働協約との整合性が取れていない就業規則は、労務トラブルの原因になります。また、法律改正や組織の変化に合わせて、定期的な見直しが必要です。
- 減給制裁のルールを適切に設けたい
- 労働協約との整合性を確認したい
- 労働基準監督署への届出に不安がある
このようなお悩みがある場合は、社会保険労務士などの専門家に相談することをおすすめします。
まとめ:就業規則と労働協約の正しい理解を
就業規則は会社のルールブックであり、従業員の働き方を定める重要な文書です。制裁規定には上限があり、労働協約がある場合はその内容が優先されます。
知らないままにしておくと、会社にとっても従業員にとっても大きなリスクとなりかねません。
就業規則の作成・見直しは、労働法の専門家とともに、法令や実務に合った形で進めましょう。
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