セクシャルハラスメントの定義と対処法~職場環境改善のために知っておくべきこと~

はじめに

近年、職場におけるセクシャルハラスメント(以下「セクハラ」)に対する社会の関心が高まっており、企業にとっても労働者にとっても重要な課題となっています。しかし、「セクハラってどこからが該当するの?」「もしセクハラを受けた場合はどうすればいいの?」といった疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。

この記事では、労働法の観点からセクシャルハラスメントの定義と対処法について、わかりやすく解説していきます。適切な知識を持つことで、誰もが安心して働ける職場環境の実現につながることを願っています。

セクシャルハラスメントとは何か~法的定義を正しく理解する~

男女雇用機会均等法による定義

セクシャルハラスメントは、男女雇用機会均等法第11条において明確に定義されています。「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること」とされています。

この定義から読み取れるのは、セクハラが単なる個人的な問題ではなく、労働条件や職場環境に深刻な影響を与える労働問題であるということです。企業にとっては法的義務として対策を講じる必要があり、適切な対応を怠れば法的責任を問われる可能性もあります。

セクハラの2つの類型を理解する

セクシャルハラスメントは、その性質によって大きく2つの類型に分類されます。

対価型セクシャルハラスメントとは、性的な言動に対する労働者の対応によって、その労働者が解雇、降格、減給、配置転換などの不利益な取扱いを受けることを指します。典型的な例として、上司からの性的な誘いを断ったために人事評価を下げられたり、望まない部署への異動を命じられたりするケースが挙げられます。

一方、環境型セクシャルハラスメントは、性的な言動によって職場環境が不快なものとなり、労働者の能力の発揮に重大な悪影響が生じることを指します。継続的な性的な冗談や噂話、身体への不必要な接触、性的な内容を含むポスターの掲示などがこの類型に該当します。

セクハラの具体例と判断基準~どこからがセクハラになるのか~

多様化するセクハラの形態

現代の職場におけるセクシャルハラスメントの形態は多様化しています。直接的な身体接触や露骨な性的発言はもちろんのこと、一見些細に見える行為も積み重なることでセクハラとなる可能性があります。

具体的には、性的な冗談や下ネタの連発、個人的な性体験についての質問、容姿に関する性的なコメント、交際やデートへの執拗な誘い、性的な内容を含むメールやLINEの送信、必要以上の身体接触などが挙げられます。また、最近では SNSを使った不適切なメッセージの送信や、オンライン会議中の不適切な発言なども問題となっています。

「受け手基準」による判断の重要性

セクシャルハラスメントの判断において最も重要なのは「受け手がどう感じるか」という視点です。行為者に悪意がなくても、受け手が性的な不快感や嫌悪感を覚えれば、それはセクハラに該当する可能性があります。

ただし、裁判所では「平均的な女性労働者の感じ方」を基準とすることが多く、客観的にも社会通念上不適切と認められる程度に達している必要があります。個人の主観だけでなく、社会常識に照らして総合的に判断されることになります。

企業に課せられる法的義務~雇用管理上の措置とは~

男女雇用機会均等法に基づく措置義務

男女雇用機会均等法第11条では、事業主に対してセクシャルハラスメントの防止のために必要な雇用管理上の措置を講じることを義務付けています。この措置義務には法的強制力があり、違反した場合は厚生労働大臣による報告徴収や助言、指導、勧告の対象となります。

具体的に求められる措置には、事業主の方針の明確化とその周知・啓発、苦情を含む相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備、職場におけるセクハラへの事後の迅速かつ適切な対応、そして相談者や行為者等のプライバシー保護と相談等を理由とする不利益取扱いの禁止とその周知などが含まれます。

安全配慮義務の観点からの企業責任

労働契約法第5条に規定されている安全配慮義務の観点からも、企業はセクハラのない職場環境を整備する責任があります。この義務を怠った場合、民法上の不法行為や債務不履行として損害賠償責任を負う可能性があります。

近年の裁判例では、企業の安全配慮義務違反が認定されるケースが増加しており、被害者への慰謝料として数十万円から数百万円、場合によっては1000万円を超える損害賠償命令が出されることも珍しくありません。企業にとっては、法的義務の履行という観点だけでなく、経営リスクの管理という側面からも重要な課題となっています。

企業が取るべき予防策~継続的な取り組みで安心できる職場を~

教育研修による意識向上

セクシャルハラスメントの予防には、全従業員に対する定期的な教育研修が効果的です。特に管理職には重点的な教育を行い、職場環境の改善に向けたリーダーシップを発揮してもらう必要があります。

研修では、法的な定義や具体的な事例を用いて、どのような言動がセクハラに該当するかを明確に示すことが重要です。また、被害者への適切な対応方法や相談を受けた際の注意点についても教育する必要があります。一度の研修で終わりではなく、継続的に実施することで意識の定着を図ることができます。

相談しやすい体制の整備

従業員が安心して相談できる体制の整備は、企業の重要な義務です。相談窓口は複数設置し、男女両方の相談員を配置することが望ましいでしょう。また、社内だけでなく外部の専門機関との連携も検討してください。

相談者のプライバシー保護と秘密保持の徹底、相談したことを理由とする不利益取扱いの禁止を明文化し、従業員に周知することも重要です。相談しやすい環境があることで、問題の早期発見と適切な対応が可能になります。

職場環境の物理的・制度的改善

物理的な職場環境の改善も予防策の一つです。密室での長時間の個別指導を避ける、アルコールを伴う懇親会での行動規範を明確にする、性的な内容を含む掲示物の禁止などの具体的なルールを設けることが有効です。

また、人事異動や業務配分においても、セクハラのリスクを考慮した配慮を行うことが重要です。過去にセクハラ問題を起こした従業員の配置や、特定の組み合わせでの業務従事について、慎重に検討する必要があります。

中小企業におけるセクハラ対策の進め方

限られた資源での効果的な取り組み

中小企業では、大企業のような充実した対策を実施することが困難な場合もありますが、規模が小さいからこそできる取り組みもあります。経営者や管理職が従業員との距離が近いことを活かし、日常的なコミュニケーションを通じて職場の雰囲気や変化を把握しやすい環境を作ることができます。

また、外部の専門機関や商工会議所等の支援制度を積極的に活用することも効果的です。産業保健総合支援センターでは、中小企業向けのハラスメント対策に関する相談や研修の支援を行っています。

外部資源の活用と同業他社との連携

中小企業単独では対応が困難な場合は、業界団体での合同研修や情報交換会の開催、同業他社との取り組み事例の共有なども有効です。限られた資源を効率的に活用するために、外部との連携を積極的に進めることが求められます。

また、顧問の社会保険労務士がいる場合は、セクハラ対策についても専門的なアドバイスを求めることができます。就業規則の整備から相談体制の構築まで、総合的な支援を受けることが可能です。

法的責任とリスク管理~企業が負う重い責任~

損害賠償リスクの実態

企業がセクハラ対策を怠った場合の法的リスクは深刻です。過去の判例では、適切な対策を講じていなかった企業に対し、数百万円から数千万円の損害賠償を命じられた事例もあります。特に、従業員から相談があったにも関わらず適切な対応を取らなかった場合や、明らかに問題のある従業員を放置していた場合には、企業の責任は重くなります。

また、被害者だけでなく、加害者とされた従業員からも、適正手続きを経ない懲戒処分について損害賠償請求を受ける可能性もあります。企業は両方の立場の従業員に対して適切な対応を取ることが求められます。

予防的措置による リスク軽減

法的リスクを回避するためには、予防的な措置を継続的に講じることが重要です。就業規則への明文化、定期的な研修の実施、相談窓口の設置と周知、適切な事後対応の実施など、総合的な取り組みが求められます。

また、これらの取り組みに関する記録の保管も重要です。実施した研修の内容や参加者、相談対応の記録、職場環境改善の取り組みなど、適切な対策を講じていたことを客観的に示せる資料を整備しておくことが、法的リスクの軽減につながります。

まとめ:すべての人が安心して働ける職場環境の実現に向けて

セクシャルハラスメントは、個人の尊厳を傷つけ、職場環境を悪化させる深刻な問題です。企業には法的義務として防止措置を講じる責任があり、すべての働く人が問題意識を持って行動することが求められています。

企業は予防的な取り組みを継続的に行い、すべての従業員が安心して能力を発揮できる職場環境の実現に努めなければなりません。

セクハラのない健全な職場環境の構築は、企業の社会的責任であると同時に、従業員のモチベーション向上や生産性の向上、優秀な人材の確保にもつながる重要な投資です。法的リスクを避けるためだけの消極的な対応ではなく、積極的に働きやすい職場づくりに取り組む姿勢が、これからの企業には求められています。

専門的な知識が必要な場面も多いため、社会保険労務士などの専門家と連携しながら、自社に最適なセクハラ対策を構築していくことをお勧めします。働く人一人ひとりが尊重され、心身ともに健康で働ける職場環境の実現は、企業の持続的な発展にとって不可欠な要素なのです。

当事務所でもセクハラ対策に関するご相談はウェルカムですので、お気軽にお問い合わせください。

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