テレワーク導入時の労務管理のポイント

新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に、多くの企業でテレワークが急速に普及しました。しかし、テレワークを導入したものの「労務管理はどうすれば良いのか分からない」「在宅勤務での労働時間管理に悩んでいる」といった声を多くお聞きします。

働き方改革の推進やワークライフバランスの向上など、テレワークには多くのメリットがある一方で、適切な労務管理を行わなければ、労使トラブルや法令違反といったリスクも抱えています。本記事では、テレワーク導入時に企業が押さえておくべき労務管理のポイントについて、分かりやすく解説いたします。

テレワークとは何か

テレワークの基本的な概念

テレワークとは、ICT(情報通信技術)を活用して、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方のことです。「tele(離れて)」と「work(働く)」を組み合わせた造語で、オフィス以外の場所で業務を行うことを指します。

テレワークには以下の3つの形態があります。

在宅勤務:自宅を就業場所として業務を行う形態 モバイルワーク:移動中や出張先、顧客先など様々な場所で業務を行う形態
サテライトオフィス勤務:本社以外の専用オフィスやコワーキングスペースで業務を行う形態

テレワーク導入における法的位置づけ

労働基準法上、テレワークは「事業場外労働」として位置づけられます。しかし、在宅勤務の場合は労働者の自宅が就業場所となるため、通常のオフィス勤務と同様に労働基準法の各種規定が適用されます。これは、テレワーク導入時の労務管理において非常に重要なポイントです。

テレワークにおける労働時間管理

労働時間把握の義務

テレワークにおいても、使用者は労働者の労働時間を適正に把握する義務があります。2019年4月に施行された労働安全衛生法の改正により、すべての労働者の労働時間の状況を客観的な方法により把握することが企業に義務づけられました。

テレワークでの労働時間把握方法としては、以下のような手法があります。

客観的な記録による把握

  • ICカードやタイムレコーダー等による出退勤時刻の記録
  • パソコンのログイン・ログアウト記録
  • 勤怠管理システムを活用した記録

やむを得ない場合の自己申告制

  • 業務日報による労働時間の申告
  • 始業・終業時刻のメール報告
  • チャットツール等による勤怠連絡

フレックスタイム制度の活用

テレワークを効果的に運用するために、フレックスタイム制度との組み合わせが推奨されます。フレックスタイム制度を導入することで、労働者は始業・終業時刻を自分で決めることができ、育児や介護との両立がより容易になります。

ただし、フレックスタイム制度の導入には労使協定の締結や就業規則の変更が必要となるため、適切な手続きを踏むことが重要です。

事業場外労働時間制の適用

業務の性質上、労働時間を算定し難い場合には「事業場外労働時間制(みなし労働時間制)」の適用を検討することも可能です。ただし、適用には厳格な要件があります。

適用要件

  • 労働者が事業場外で労働すること
  • 労働時間を算定し難いこと
  • 使用者の具体的な指揮監督が及ばないこと

在宅勤務の場合、パソコンやスマートフォン等で随時連絡が取れる状況では、事業場外労働時間制の適用は困難とされることが多いため、注意が必要です。

テレワークにおける健康管理とメンタルヘルス対策

労働者の健康配慮義務

使用者は労働契約に基づき、労働者の生命・健康を危険から保護する義務を負っています。これは「安全配慮義務」と呼ばれ、テレワークにおいても同様に適用されます。

テレワークにおける健康管理のポイントは以下の通りです。

作業環境の確保

  • 適切な照明、温度、湿度の確保
  • 作業に適した机・椅子の使用
  • VDT作業における適正な作業環境の整備

長時間労働の防止

  • 労働時間の適正な管理
  • 36協定の遵守
  • 健康障害防止のための措置

VDT作業における留意事項

テレワークでは、パソコン等のVDT(Visual Display Terminal)機器を使用した作業が中心となります。厚生労働省の「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」に基づき、以下の点に注意が必要です。

  • 連続作業時間は1時間以内とし、作業と作業の間に10~15分の休憩を設ける
  • ディスプレイの上端が目線より下になるように調整
  • 適切な照明条件の確保(300ルクス以上、500ルクス以下)

メンタルヘルス対策の重要性

テレワークにより、同僚や上司とのコミュニケーション機会が減少することで、孤立感やストレスを感じる労働者も少なくありません。企業は以下の対策を講じることが重要です。

コミュニケーション機会の確保

  • 定期的な1on1面談の実施
  • チームミーティングの開催
  • オンライン懇親会等の非業務的交流の促進

相談窓口の設置

  • メンタルヘルス相談窓口の周知
  • 産業医や保健師等による健康相談の実施
  • EAP(従業員支援プログラム)の活用

テレワーク時の就業規則と労使協定

就業規則の整備

テレワークを導入する際は、就業規則への記載が必要です。就業規則には以下の事項を定めることが重要です。

テレワークの対象者

  • 対象となる労働者の範囲
  • 対象業務の種類
  • 申請・承認手続き

労働時間の取り扱い

  • 始業・終業時刻の決定方法
  • 休憩時間の取り扱い
  • 中抜け時間の扱い

服務規律

  • 業務専念義務
  • 秘密保持義務
  • セキュリティ対策の遵守

テレワーク導入時の労使協定

円滑なテレワーク運用のためには、労働者代表との十分な協議を行い、必要に応じて労使協定を締結することが推奨されます。

労使協定で定める事項の例

  • テレワークの実施方針
  • 対象業務と対象者の基準
  • テレワーク実施時の労働時間管理方法
  • 費用負担の考え方
  • セキュリティ対策

テレワークにおける情報セキュリティ対策

情報管理の重要性

テレワークでは、社外で業務を行うため、情報漏洩のリスクが高まります。企業の機密情報や個人情報を適切に保護するため、包括的なセキュリティ対策が不可欠です。

技術的セキュリティ対策

  • VPN接続の導入
  • ウイルス対策ソフトの導入・更新
  • パスワード管理の徹底
  • 端末の暗号化設定

物理的セキュリティ対策

  • 作業場所の環境確認
  • 画面の覗き見防止対策
  • 書類や端末の適切な管理
  • 無線LAN環境のセキュリティ確保

セキュリティ教育と研修

労働者に対するセキュリティ教育も重要な要素です。定期的な研修を通じて、以下の内容を周知徹底することが必要です。

  • 情報セキュリティポリシーの理解
  • フィッシングメール等への対処法
  • 紛失・盗難時の対応手順
  • インシデント発生時の報告体制

テレワークにおける費用負担

費用負担の考え方

テレワークに伴う費用負担については、労働基準法上明確な規定はありませんが、労使間での合意により定めることが一般的です。

企業が負担する費用の例

  • パソコン、スマートフォン等の機器
  • 業務用ソフトウェアのライセンス
  • 通信費(業務利用分)
  • セキュリティ対策費用

労働者負担となることが多い費用

  • 光熱費
  • 家具・設備(机、椅子等)
  • 通信費(私的利用分)

通信費の取り扱い

特に通信費については、業務利用分と私的利用分の区分が困難な場合が多く、実務上の課題となっています。一般的には以下のような方法で対応されています。

  • 業務専用の通信回線を会社で契約
  • 一定額の通信手当を支給
  • 実際の使用量に基づいた按分計算

テレワークの効果測定と改善

導入効果の測定

テレワークの導入効果を適切に測定し、継続的な改善を図ることが重要です。測定指標の例は以下の通りです。

生産性指標

  • 業務効率の変化
  • 成果物の質的向上
  • 顧客満足度の変化

労働者満足度指標

  • ワークライフバランスの改善度
  • ストレス軽減効果
  • 職場満足度の変化

経営指標

  • 人材確保・定着率
  • オフィス費用等のコスト削減効果
  • 企業ブランドイメージの向上

継続的な制度改善

テレワークは一度導入して終わりではなく、運用状況を定期的に見直し、改善を図ることが重要です。

改善のポイント

  • 労働者からの意見・要望の収集
  • 管理職向けのマネジメント研修
  • システム・ツールの継続的アップデート
  • 制度の柔軟な見直し

まとめ

テレワークは、働き方改革の推進や生産性向上、優秀な人材の確保など、企業にとって多くのメリットをもたらす可能性があります。しかし、適切な労務管理を行わなければ、労使トラブルや法令違反といったリスクも伴います。

テレワーク導入時に重要なポイントは以下の通りです。

  • 労働時間の適正な把握と管理体制の構築
  • 健康管理・メンタルヘルス対策の充実
  • 就業規則・労使協定等の適切な整備
  • 情報セキュリティ対策の徹底
  • 費用負担に関する明確なルール策定
  • 継続的な効果測定と制度改善

これらの要素を総合的に検討し、自社の業務内容や組織風土に適したテレワーク制度を構築することが成功の鍵となります。

テレワーク導入は単なる働く場所の変更ではなく、企業の人事労務管理全体を見直す良い機会でもあります。導入を検討される企業においては、労働法や労務管理に精通した専門家である社会保険労務士にご相談いただくことをお勧めいたします。適切な制度設計と運用により、テレワークは企業の競争力向上と従業員満足度の向上を同時に実現する重要なツールとなるでしょう。

働き方の多様化が求められる現代において、テレワークは重要な選択肢の一つです。導入をご検討の際は、ぜひお気軽に専門家にご相談ください。

専門的な支援が必要な場合は、弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談いただくことをお勧めいたします。適切な対策により、すべての従業員が能力を十分に発揮できる職場環境の実現を目指しましょう。

当事務所でもご相談はウェルカムですので、お気軽にお問い合わせください。

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