厚生労働省「モデル就業規則(英語版)」解説 Article 1 (Purposes):就業規則の「目的」を英語で定義する
厚生労働省の「モデル就業規則(英語版)」を詳しく、かつ「受験英語」のような視点で分かりやすく解説していきます。
【出典】https://www.mhlw.go.jp/content/001456902.docx
このブログは、外国人社員の採用に伴い英語の就業規則を整備する必要があるものの、単なる翻訳ではない「生きた法務英語」の理解に苦戦している経営者や人事担当者の皆様に向けて執筆しています。
第1回目は、全てのルールの出発点となるChapter 1 General Provisions(第1章 総則)の「Article 1 Purposes(第1条 目的)」を取り上げます。
就業規則の冒頭には必ず「目的」が記されます。まずは、モデル就業規則の条文(Article)を見てみましょう。
1. 条文チェック
(Purposes)
Article 1 The rules of employment provide stipulations pertaining to employment for the workers at _______________ Corporation conforming to Article 89 of the Labor Standards Act (hereinafter referred to as “Labor Standards Act”).
2. The Labor Standards Act and other labor laws apply to all matters pertaining to employment including what is stipulated in these rules.
【日本語訳】
(目的)
第1条 この就業規則は、____株式会社の労働者の雇用に関する規定を、労働基準法(以下「労基法」という)第89条に基づき定めるものである。
2. 労基法その他の労働法は、この規則に定める事項を含め、雇用に関するすべての事項に適用される。
2. 重要語彙と文法
この短い文章の中には、契約書や公文書特有の「お作法」が詰まっています。一つずつ分解して解説します。
① provide stipulations(規定を設ける)
- stipulation [stìpjuléɪʃən](名詞):規定、条項、条件 受験英語ではあまり馴染みがないかもしれませんが、法務英語では必須単語です。動詞形の stipulate(規定する)もセットで覚えましょう。
- ここでは "provide stipulations" で「規定を提供する(=規定を置く)」という意味になります。
② pertaining to(〜に関する)
- pertain to [pərtéɪn]: 〜に付随する、〜に関連する "about" や "regarding" よりも非常にフォーマルな表現です。
- 文法ポイント: "stipulations pertaining to employment" の部分は、現在分詞句が直前の stipulations を後置修飾しています。「雇用に関する規定」と訳します。
③ conforming to(〜に準拠して)
- conform to [kənfɔ́ːrm]: 〜に従う、〜に適合する 「規則や法に従う」際によく使われる群動詞です。
- ここでは、この就業規則が労働基準法第89条に基づいて(準拠して)作成されていることを示しています。
④ hereinafter referred to as(以下「〜」という)
- hereinafter [hìərɪnáftər](副詞):これ以降、以下において 「here(ここ=この文書)」+「after(後)」の合成語です。
- 文法ポイント: 契約書の定型句 "A (hereinafter referred to as B)" です。「A(以下Bと呼ぶ)」という定義付けの表現です。この条文では「労働基準法(以下『労基法』という)」と定義しています。
3. 実務への応用:自社ルールに合わせて書き換える際の注意点
経営者・人事担当者の皆様が、このモデルを自社用にカスタマイズする際のポイントをお伝えします。
(1)会社名の記入 空欄の _______________ Corporation には、貴社の英文正式名称を記載します。登記上の名称と一致させるようにしてください。
(2)「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする」という労働契約法第12条のルールがありますので、併せて押さえておきましょう。
(3)「書かれていないこと」の取り扱い 条文の第2項には、"all matters ... including what is stipulated in these rules"(この規則に定められたことを含む全ての事項)に労働法が適用されるとあります。 これは、「この就業規則に書いていないからといって、日本の法律を守らなくていいわけではないですよ」という意味になります。仮にこの条文がなかったとしても、労働法は強行法規として適用されますが、確認のため記載されていると思われます。
4. ワンポイント英文法
今回の条文からピックアップするのは、契約書や公用文で頻出する定型表現、「hereinafter referred to as 〜(以下「〜」という)」の構造です。
(hereinafter referred to as “Labor Standards Act”)
この短いフレーズには、「語形成」と「群動詞の受動態」のエッセンスが凝縮されています。
- ポイント1:複合副詞 "hereinafter" の分解 これは here(この文書) + in(の中の) + after(後で) が合体してできた単語です。 「この就業規則内のこれ以降の部分では」という意味になります。法律英語における "here" は常に「この文書/この契約」を指すと覚えておくと、他の条文も読みやすくなります。
- ポイント2:群動詞 "refer to A as B" の受動態 「AをBと呼ぶ/参照する」という群動詞 refer to A as B が受動態になり、A is referred to as B(AはBと呼ばれる)となった形です。 ここでは、関係代名詞の主格とbe動詞(which is)が省略された形(分詞による後置修飾)で、直前の "Labor Standards Act" という固有名詞を補足説明しています。
5.まとめ
まずはこの「Article 1」を貴社の英文規定にそのまま、あるいは社名を正しく入れて反映させることから始めてみてください。英語での就業規則作成は大変な作業ですが、一つひとつの英単語の「重み」を理解することで、外国人社員とのトラブルを未然に防ぐ強い組織作りへと繋がります。

