厚生労働省「モデル就業規則(英語版)」解説 Article 3 (Compliance with the rules):就業規則の「規則の遵守」を英語で定義する

厚生労働省の「モデル就業規則(英語版)」を詳しく、かつ「受験英語」のような視点で分かりやすく解説していきます。

【出典】https://www.mhlw.go.jp/content/001456902.docx

このブログは、外国人社員の採用に伴い英語の就業規則を整備する必要があり、単なる翻訳ではない「生きた法務英語」の理解を目指している経営者や人事担当者の皆様に向けて執筆しています。

今回のテーマは、第1章 総則(General Provisions)の第3条「規則の遵守(Compliance with the rules)」です。この条文は非常に短いですが、会社と従業員の双方が「このルールを誠実に守る」という、労使関係の根幹となる合意を規定しています

(Compliance with the rules)
Article 3 A company has an obligation to employ workers under the terms and conditions of employment set out in these rules of employment. The workers must comply with the rules of employment.

【日本語訳】
(規則の遵守)
第3条 会社は、この就業規則に定める労働条件により労働者を雇用する義務を負い、労働者は、この就業規則を遵守しなければならない。

  • compliance [kəmpláɪəns](名詞):遵守、応諾
    動詞 comply の名詞形です。近年はビジネス用語として「コンプライアンス(法令遵守)」が定着していますが、もともとは「(要求や規則に)従うこと」を指します。
  • obligation [ὰbləɡéɪʃən](名詞):義務、責務
    動詞 oblige(〜を余儀なくさせる)の名詞形です。法的・道徳的な「拘束力のある義務」を指し、"have an obligation to do"(〜する義務がある)の形で頻出します。
  • terms and conditions(名詞句):(取引や雇用の)諸条件
    ビジネス英語で最も重要な定型句の一つです。terms は「期間」ではなく「条件」という意味で使われており、conditions とセットで「労働条件全般」を指します。
  • Set out [sét áʊt](句動詞):(詳しく)提示する、規定する
    第2回に登場した set forthstipulate の類義語です。ここでは過去分詞として、直前の "terms and conditions" を後置修飾しています。
  • Comply with [kəmpláɪ wɪð](句動詞):(規則・命令などに)従う、遵守する
    自動詞 comply は必ず前置詞 with を伴います。

経営者・人事担当者の皆様が、この一文を自社の規則に組み込む際の法的な意義を解説します。

① 労使双方への義務づけ
この条文の最大の特徴は、義務を負うのが「従業員」だけでなく「会社」も含まれている点です。会社は「自分が決めたルールに従って正しく雇う義務」を負い、従業員は「ルールを守って働く義務」を負います。これは労働基準法第2条にある「労働者及び使用者は、……これ(就業規則)を遵守し、……誠実にその義務を履行しなければならない」という原則を反映したものです。

② 服務規律(Chapter 3)への橋渡し
第3条は「ルールを守れ」という抽象的な宣言ですが、具体的に何をどう守るべきかは、後の第3章「服務(Responsibilities)」で詳しく述べられます。厚生労働省の資料によれば、具体的な服務規律(Article 10, 11など)を定めることは、職場の秩序を維持するために重要な役割を果たすとされています。 第3条はその「前提」となるコミットメントなのです。

③ 労働契約との整合性
「under the terms and conditions... set out in these rules(この規則に定められた条件の下で)」という表現は、個別の労働契約(Labor Contract)よりも就業規則が「最低基準」として機能することを暗に示しています。第1回で触れた通り、就業規則を下回る条件の契約は無効となるため、この第3条の「宣言」は法的にも非常に重い意味を持ちます。

今回の条文から学ぶのは、前置詞 "under" の法務文書における役割です。

...employ workers under the terms and conditions...

受験英語ではunder は「〜の下(位置)」や「〜未満(数量)」と習います。しかし、法律英語や契約書では、「(ルール・条件など)に基づいて」「〜に従って」という意味で多用されます。

  • 用法:under the rules / under the law / under the contract
    これらは「そのルールの支配(影響)下にある」というイメージから、「その規定に従って」と訳されます。
  • 同義語との使い分け:
    according toin accordance with とほぼ同じ意味ですが、under は「その法体系や規定の枠組みの中で」という、より包括的なニュアンスを含みます。

Article 3は、会社と従業員がお互い誠実に向き合うことを宣言しています。

  1. "A company has an obligation": 会社側も勝手な変更は許されない。
  2. "The workers must comply": 従業員もルールを尊重しなければならない。
  3. "Terms and conditions": 抽象的な「約束」ではなく、明文化された「条件」を守る。

この条文を冒頭(総則)に置いておくことで、万が一トラブルが起きた際も、「そもそも双方が遵守に合意している」という立ち戻るべき原点となります。英語の就業規則を作成する際は、このシンプルながら強力な一文を削らずに、しっかり明記しておくことをお勧めします。

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