厚生労働省「モデル就業規則(英語版)」解説 Article 9 (Leave of Absence):就業規則の「休職」を英語で定義する

厚生労働省の「モデル就業規則(英語版)」を詳しく、かつ「受験英語」のような視点で分かりやすく解説していきます。

【出典】https://www.mhlw.go.jp/content/001456902.docx

このブログは、外国人社員の採用に伴い英語の就業規則を整備する必要があり、単なる翻訳ではない「生きた法務英語」の理解を目指している経営者や人事担当者の皆様に向けて執筆しています。

今回取り上げるのは、第2章「採用及び異動」の最後となる第9条「休職(Leave of Absence)」です。

社員が私的な病気や怪我で働けなくなった際、解雇するのではなく、雇用関係を維持したまま一定期間職務を免除する「休職」制度は、日本の労務管理における非常に重要な「セーフティネット」です。この条文には、条件分岐や否定のニュアンスを含む高度な英語表現が含まれています。


(Leave of Absence)
Article 9 If a worker falls under any of the following categories, they shall be granted a leave of absence for the specified duration.
(a) In the case where a worker has been absent due to injury or illness outside the course of duties for more than _____ month(s), and they require further treatment and cannot work. (within _____ year(s))
(b) In addition to the case of the preceding provision, where there are special circumstances in which allowing a leave of absence is considered to be appropriate. (the period required: ________ )
2. In the case where the reason for the leave of absence is resolved during such leave, as a basic rule, the worker shall return to work in the position they held before taking the leave. However, in the case where it is difficult or inappropriate for the worker to return to the position they held before taking the leave, the company may assign them to a different position.
3. In the event that a worker who is on leave of absence pursuant to paragraph 1-1 fails to recover from the injury or illness and still finds it difficult to return to work after the full term of the leave of absence, they shall retire immediately after the full term of leave of absence.

(休職)
第9条 労働者が、次の各号のいずれかに該当するときは、休職とする。
(a) 業務外の傷病による欠勤が__か月を超え、なお療養を継続する必要があるため職務に服することができないとき(__年以内)
(b) 前号のほか、特別の事情があって休職させることが適当と認められるとき(必要な期間)
2. 休職期間中に休職事由が消滅したときは、原則として元の職務に復帰させる。ただし、元の職務に復帰させることが困難又は不適当な場合は、別の職務に配置することがある。
3. 第1項第1号により休職し、休職期間が満了してもなお傷病が治癒せず職務に服することができないときは、休職期間満了の日をもって退職とする。


休職制度の「状態」や「期間」を正確に表すための語彙をチェックします。

  • Leave of Absence [líːv ʌv ǽbsəns](名詞句):休職、休暇
    Absence(欠勤・不在)のための Leave(許可・去ること)という構造です。日本語の「休職」に当たる最も標準的な表現です。
  • Grant [ɡrǽnt](動詞):(許可や権利を)与える、認める
    受験英語では「(願いなどを)叶える」と訳されますが、法務文書では「(会社が権利として)付与する」という意味で使われます。
  • Fall under [fɔ́ːl ʌ́ndər](句動詞):〜に該当する、〜の範疇に入る
    特定のカテゴリーや規定に「当てはまる」ことを指す、契約書の頻出表現です。
  • Injury or illness outside the course of duties(名詞句):業務外の傷病(私傷病)
    「職務の過程(course of duties)の外側」という直訳から、労災ではない私的な理由による怪我や病気を指します。
  • Resolved [rizάlvd](過去分詞):(問題や事由が)解消された、解決した
    Resolve は「決心する」の他に「解決する」という意味があります。ここでは休職の理由(病気など)がなくなった状態を指します。
  • Inappropriate [ìnəpróʊpriət](形容詞):不適切な、不適当な
    Appropriate(適切な)に否定の接頭辞 in- がついた形です。元のポストに戻すことが「相応しくない」と判断される場合に使われます。

経営者・人事担当者の皆様が「休職」規定を運用する際、以下の3点に注意が必要です。

① 休職期間の設定(第1項)
労働基準法には、休職期間の長さに関する直接的な規定はありません。そのため、空欄の ( )month(s)や (  )year(s)は、会社の規模や体力に合わせて設定することになります。一般的には、勤続年数に応じて「3か月」「1年」などと段階的に設定することが多いです。

② 「復職」の判断と配置転換(第2項)
休職事由が解消された場合、原則は「元の職務(position they held before)」への復帰です。しかし、病み上がりの社員に以前と同じ激務をこなさせることが「困難(difficult)または不適当(inappropriate)」な場合もあります。この条文では、会社に「別の職務(different position)」へ配置する裁量を残しており、安全配慮義務とのバランスを図っています。

③ 休職期間満了による「自然退職」(第3項)
休職期間が終わっても治癒(recover)しない場合、解雇の手続きを踏まずに「自動的に退職(retire immediately)」とする規定です。これを明記しておかないと、いつまでも雇用関係が続いてしまうリスクがあるため、実務上は必須の条項です。


今回の条文から取り上げるのは、第3項にある "fails to [verb]" という表現です。

...fails to recover from the injury or illness...

受験英語の「準否定」の文脈で登場するこの形は、法務文書において非常に洗練された響きを持ちます。

  • 「〜しない」のフォーマルな表現
    単に does not recover(治癒しない)と言うよりも、fails to recover とすることで、「(治癒すべきなのに)治癒するに至らない」「治癒し損ねる」という、あるべき状態に到達しなかったニュアンスを強調できます。
  • 客観性の付与
    Fail to は「努力したけれどダメだった」という文脈だけでなく、契約書等では「(条件として設定された事柄が)発生しなかった」という事実を客観的に述べるために使われます。
  • 応用範囲
    fails to pay(支払いを怠る)、fails to notify(通知を怠る)など、義務や期待される動作が行われなかった場合を指す際、not を使うよりもプロフェッショナルな印象を与えます。

Article 9は、社員が万が一働けなくなった際の「雇用継続のルール」と、残念ながら復職できなかった際の「出口のルール」を定めています。

  1. "Grant a leave of absence"
    会社が一定期間の猶予を与えることを宣言し、
  2. "Resolved"
    事由が解消された際の復職ルール(配置転換の可能性を含む)を定め、
  3. "Fails to recover"
    期間満了時に治癒しなかった場合の自動的な退職を規定する。

厚労省の資料によれば、休職は法律で義務付けられた制度ではありませんが、職場の秩序維持(maintaining order)のために詳細な手続きを定めておくことが強く推奨されています。外国人社員にとって「病気で休んでいる間にクビになるのか、守られるのか」は最大の関心事の一つです。この条文を正確に提示することで、会社としての誠実な姿勢を示すことができます。

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