厚生労働省「モデル就業規則(英語版)」解説 Article 6 (Probationary Employment Period):就業規則の「試用期間」を英語で定義する
厚生労働省の「モデル就業規則(英語版)」を詳しく、かつ「受験英語」のような視点で分かりやすく解説していきます。
【出典】https://www.mhlw.go.jp/content/001456902.docx
このブログは、外国人社員の採用に伴い英語の就業規則を整備する必要があり、単なる翻訳ではない「生きた法務英語」の理解を目指している経営者や人事担当者の皆様に向けて執筆しています。
前回は「採用時の提出書類(Article 5)」を扱いましたが、今回はいよいよ採用後の最初の関門である第2章「採用及び異動」の第6条「試用期間(Probationary Employment Period)」を読み解いていきます。
1. 条文チェック
(Probationary Employment Period)
Article 6 A probationary employment period of _____ months from the day of being hired shall apply to newly hired workers.
2. The probationary period prescribed in the preceding paragraph may be shortened or eliminated in the case where the company approves such an action.
3. During the Probationary Employment Period, a company may dismiss those who are assessed as unfit as workers. For those who are employed for more than 14 days after the commencement of their employment, the company must follow the procedures pursuant to Article 53-2.
4. The probationary period shall be added to the year of service.【日本語訳】
(試用期間)
第6条 採用の日から__か月間を試用期間とする。
2. 前項の試用期間は、会社が認めたときは、これを短縮し、又は設けないことがある。
3. 試用期間中に労働者として不適当と認めた者は、解雇することがある。ただし、採用後14日を経過した者については、第53条第2項に定める手続による。
4. 試用期間は、勤続年数に通算する。
2. 重要語彙と文法
- Probationary [proubéɪʃənèri](形容詞):試用(中)の、見習いの
名詞 probation(見習い期間)の形容詞形です。接尾辞 -ary(〜の性質を持つ)に注目すると、「試用の性質を持った(期間)」と理解できます。 - Prescribe [prɪskráɪb](動詞):規定する、定める
受験英語では「(薬を)処方する」としておなじみですが、法務・ビジネス英語では「(ルールを)規定する」という意味が主流です。 - Eliminate [ɪlímənèɪt](動詞):取り除く、排除する
「試用期間を設けない」ことを、ここでは「排除する(ゼロにする)」と表現しています。 - Assess [əsés](動詞):評価する、査定する
単なる check よりも、客観的な基準に照らして「判断・査定する」という重いニュアンスがあります。 - Commencement [kəménsmənt](名詞):開始
動詞 commence(開始する)の名詞形。start よりも格調高く、契約上の「効力発生」などを指す際に好まれます。 - Pursuant to [pərsúːənt túː](群前置詞):〜に従って、〜に基づき
法務英語の鉄板フレーズです。According to の法律版だと覚えましょう。
3. 実務への応用:自社ルールに合わせて書き換える際の注意点
経営者や人事担当者が「試用期間」を運用する際、注意しなければならない労働基準法のルールが2点あります。
① 「14日の壁」と解雇予告(第3項)
第3項の後半にある "more than 14 days after the commencement" という部分は、労働基準法第21条に基づいています。
- 採用後14日以内: 即時解雇が可能です。
- 採用後14日経過後: 試用期間中であっても、通常の解雇と同様に「30日前の予告」または「30日分以上の平均賃金(dismissal allowance)」の支払いが必要になります。 英語で "must follow the procedures pursuant to Article 53-2"(第53条2項=解雇の手続きに従え)とあるのは、この法的義務を指しています。
② 勤続年数への通算(第4項)
"shall be added to the year of service"(勤続年数に加算する)という規定は、有給休暇(annual paid leave)の付与基準に関わります。たとえ「お試し期間」であっても、法的メリットを計算する際のスタート地点は「採用初日」でなければなりません。
③ 期間の妥当性
第1項の空欄のについて、日本の法律に具体的な長さの制限はありませんが、「過度に長い試用期間は、労働者の地位を不安定にするため望ましくない」とされています。一般的には3か月〜6か月程度が妥当です。
4. ワンポイント英文法
今回の条文からピックアップするのは、第1項にある受動態の動名詞 "being hired" です。
...from the day of being hired...
受験英語の「動名詞」の章で登場する、少し発展的な形です。
- 構造の解説
前置詞 of の目的語として動名詞が来ていますが、意味上の主語である「労働者」は「雇う(hire)」のではなく「雇われる」側です。そのため、単なる hiring ではなく、being + 過去分詞 の形をとります。 - 法務英語におけるメリット
The day when the company hires the worker と書くよりも、the day of being hired と動名詞句にする方が、主語を「労働者」に固定したまま、名詞的にコンパクトに表現できます。 - 応用
就業規則では、「〜された時」「〜された場合」という受動的な状況が多く発生します。the fact of being dismissed(解雇されたという事実)のように、この「受動態の動名詞」は頻繁に活用されます。
5. まとめ
Article 6(試用期間)は、会社が社員の適格性を見極める権利を明記すると同時に、14日を超えた場合には日本の厳しい労働法規(解雇予告の手続きなど)に従うことを宣言しています。
- "Probationary period": 期間を明確にし、
- "Assessed as unfit": 適格性を客観的に評価した上で、
- "Pursuant to Article 53-2": 法定の解雇ルールを遵守する。
外国人社員にとって、「試用期間=いつでも自由にクビにできる期間」という誤解がある場合も少なくありません。この条文を正しく英訳・説明しておくことは、無用な解雇トラブルを防ぐ強力な盾となります。

