厚生労働省「モデル就業規則(英語版)」解説 Article 10 (Responsibilities):就業規則の「服務」を英語で定義する

厚生労働省の「モデル就業規則(英語版)」を詳しく、かつ「受験英語」のような視点で分かりやすく解説していきます。

【出典】https://www.mhlw.go.jp/content/001456902.docx

このブログは、外国人社員の採用に伴い英語の就業規則を整備する必要があり、単なる翻訳ではない「生きた法務英語」の理解を目指している経営者や人事担当者の皆様に向けて執筆しています。

前回までは、採用から休職までの「雇用の流れ」を見てきました。
今回からは第3章「服務(Responsibilities)」に入ります。

その最初の条文となる第10条「服務(Responsibilities)」を読み解いていきましょう。

この条文は、従業員が職場でどのようなスタンスで働くべきかという、いわば「働く上での心構え」を規定したものです。一見すると当たり前のことが書かれているようですが、法的な命令権の根拠となる重要な語彙が隠されています。

(Responsibilities)
Article 10 Workers must be aware of their job responsibilities, fulfill their duties, obey the company’s directions and orders, and endeavor to improve their efficiency and maintain the order of the workplace.

(和訳:服務)
第10条 労働者は、職務上の責任を自覚し、誠実に職務を遂行するとともに、会社の指示命令を遵守し、能率の向上及び職場秩序の維持に努めなければならない。

この条文には、職務遂行における「動作」を表す動詞が多く出てきます。

・responsibility [rɪspὰnsəbíləti](名詞):職務、責任、責務
第8条でも登場しましたが、ここでは複数形の responsibilities となっており、「日々こなすべき具体的な職務の数々」というニュアンスが含まれます。

・be aware of [biː əwéər ʌv](形容詞句):〜を自覚している、〜に気づいている
受験英語では「〜を知っている」と訳されますが、ここでは「自分の立場や責任をしっかりと認識している」という主観的な状態を指します。

・fulfill [fʊlfíl](動詞):(義務・約束などを)果たす、遂行する
duties(義務・職務)とセットで使われ、「与えられた役割を完遂する」という意味になります。イギリス英語では fulfil と綴られることもあります。

・obey [oʊbéɪ](動詞):〜に従う、遵守する
規則や命令に「服従する」という強い響きを持つ他動詞です。前置詞を伴わずに直接目的語(directions and orders)を取る点に注意してください。

・direction [dɪrékʃən] / order [ɔ́ːrdər](名詞):指示 / 命令
ビジネスの現場での「指示命令」のセット表現です。direction は「方向性を示す指示」、order は「具体的な命令」といった使い分けがなされます。

・endeavor to [endévər túː](句動詞):〜しようと努める、努力する
受験英語では try to よりも堅い表現として習います。法務文書では「最大限の努力を尽くす」という努力義務を表す際によく使われます。

・efficiency [ɪfíʃənsi](名詞):能率、効率 形容詞
efficient の名詞形です。「最小の労力で最大の成果を出すこと」を指します。

第10条は、会社が従業員に対して持つ「指揮命令権」の根拠となる条文です。

① 「服務」を規定する意義
この第10条や次条の「遵守事項」は、就業規則に必ず記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)ではありません。しかし、職場の秩序を維持(maintaining order)するためには、こうした規定を置くことが非常に重要な役割を果たすとされています。

② 包括的な義務の宣言
この条文は、具体的な「してはいけないこと」を並べる前に、「誠実に働き、指示に従う」という包括的な義務を宣言しています。これにより、個別の遵守事項に書ききれない予期せぬ事態が起きた際も、この「第10条違反」を根拠に指導を行うことが可能になります。

③ 誠実義務の反映
労働基準法第2条には、労働者と使用者は「誠実にその義務を履行しなければならない」という原則があります。第10条にある fulfill their duties(職務を遂行する)や maintain the order(秩序を維持する)という表現は、この法的な誠実義務を具体化したものと言えます。

今回の条文から学ぶのは、助動詞 must が複数の動詞を支配する「並列構造(Parallel Structure)」です。

Article 10 Workers must (1) be aware of..., (2) fulfill..., (3) obey..., and (4) endeavor to...

受験英語の並べ替え問題や英作文で、動詞をたくさん並べる際にミスをしやすいポイントです。

・ポイント1
共通の助動詞 主語の Workers の後に来る must が、カンマで区切られた4つの動詞句すべてにかかっています。2つ目以降の動詞に改めて must を付ける必要はありません。

・ポイント2
and の位置 A, B, C, and D というリスト形式になっており、最後の要素(endeavor to...)の直前にだけ接続詞 and を置きます。これにより、「これら全てが労働者の義務である」というまとまりが明確になります。

・ポイント3
品詞の一致 must の後なので、当然すべて「動詞の原形」で揃える必要があります。be aware...(形容詞句を伴う動詞句)、fulfill...(他動詞)、obey...(他動詞)、endeavor to...(不定詞を伴う自動詞句)と、形は違えど全て動詞の原形から始まっていることを確認してください。

この「must + 動詞リスト」の構造を理解すると、長い条文でも「結局、何をしなければならないのか」をパズルを解くように見抜けるようになります。

Article 10は、いわば「プロとしての行動指針」です。

  1. be aware of / fulfill: 自分の仕事を責任を持ってやり遂げる。
  2. obey: 会社の指示命令に従う。
  3. endeavor to improve/maintain: 能率を上げ、職場の和を保つ努力をする。

具体的な禁止事項(セクハラ禁止や秘密保持など)に入る前に、これらを英語で定義しておくことは、特に多様な文化的背景を持つ従業員を雇用する上で、組織の「共通言語」を作ることに繋がります。

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