厚生労働省「モデル就業規則(英語版)」解説 Article 8 (Personnel Transfer):就業規則の「人事異動」を英語で定義する

厚生労働省の「モデル就業規則(英語版)」を詳しく、かつ「受験英語」のような視点で分かりやすく解説していきます。

【出典】https://www.mhlw.go.jp/content/001456902.docx

このブログは、外国人社員の採用に伴い英語の就業規則を整備する必要があり、単なる翻訳ではない「生きた法務英語」の理解を目指している経営者や人事担当者の皆様に向けて執筆しています。

今回のテーマは、**第2章「採用及び異動」の第8条「人事異動(Personnel Transfer)」**です。企業が成長し、組織を柔軟に動かすためには「配属先の変更」や「出向」の命令権を明確にしておくことが不可欠です。一方で、これらは労働者の生活に大きな影響を与えるため、英語での表現も非常に慎重に選ばれています。


(Personnel Transfer)
Article 8 A company may order a worker to change their responsibilities or locations of their employment if it is necessary for the business operation.
2. A company may second a worker to a different company related to the one that originally hired them, while their employment remains under the original company, when necessary.
3. In the case of the preceding paragraphs, a worker is not permitted to reject the order without justifiable reason.

(人事異動)
第8条 会社は、業務上の必要がある場合は、労働者に対して職務内容の変更又は勤務場所の変更を命ずることがある
2. 会社は、必要がある場合は、労働者を在籍のまま、関係会社へ出向させることがある
3. 前2項の場合、労働者は正当な理由なく、これを拒むことはできない。


人事権の行使に関する単語をピックアップします。

  • Personnel Transfer [pə̀rsənél trǽnsfər](名詞句):人事異動
    Personnel は「職員、人事」を指す集合名詞で、アクセントが後ろ(-nel)にあることに注意してください。Transfer は「移動、転勤」を意味します。
  • Responsibility [rɪspὰnsəbíləti](名詞):職務、責務
    「責任」と訳すのが一般的ですが、就業規則の文脈では「担当する業務内容(Job contents)」を指します。
  • Second [sikάnd](動詞):〜を出向させる
    「2番目の」という形容詞ではなく、アクセントを後ろに置くと「(一時的に別の場所へ)転任させる、出向させる」という意味になります。
  • Justifiable reason [dʒʌ̀stəfáiəbl ríːzn](名詞句):正当な理由
    動詞 justify(正当化する)の形容詞形 justifiable を使った、契約書や規程のフレーズです。
  • Reject [ridʒékt](動詞):拒絶する、拒む
    Refuse よりも「(提示されたものを)はねつける」という強いニュアンスを含みます。

人事異動の命令権を英語で定義する際、経営者や人事担当者が押さえるべきポイントが3点あります。

① 人事異動の包括的命令権
日本の判例法理では、就業規則に「業務上の必要がある場合は異動を命じる」という規定があれば、原則として労働者の個別同意なしに配属先や職務を変更できるとされています。ただし、厚生労働省のガイドラインでは、労働者との紛争を避けるためにも「就業規則に明示的に規定すること(clearly state... in the rules of employment)」と「労働者の合意を得る努力をすること(gain the agreement of the worker)」が推奨されています。

② 出向(Secondment)の規定
第2項にある「在籍出向」は、元の会社との雇用関係を維持したまま、別の会社(related company)で働く形態です。これを行うには、就業規則に「出向を命じることができる」という具体的な根拠条項(stipulations concerning such a secondment)が必須です。

③ 育児・介護への配慮義務
転勤などの勤務場所の変更(change of the workplace)を命じる際、会社は労働者の育児や介護の状況(circumstances... in regards to childcare and family care)を考慮しなければなりません(育児・介護休業法第26条)。英語の規定を作成する際も、この配慮義務があることを念頭に置いた運用が求められます。


今回の条文からは、第2項にある代名詞 "one"関係代名詞 "that" の組み合わせを取り上げます。

...a different company related to the one that originally hired them...

  • ポイント1:代名詞 "one" の役割
    この one は、直前に出てきた名詞 "company" の繰り返しを避けるための代名詞です。 " a different company related to the company that …" と書くよりも、one を使うことで文章がスッキリします。
  • ポイント2:関係代名詞節による限定
    one(=会社)の後に that による関係代名詞節が続き、「(他の会社ではなく)元々彼らを雇った方の会社」という限定を加えています。
  • 文法的な見極め
    ここでは「出向先の会社」と「元々の雇用主(元本会社)」という二つの会社を対比させているため、one を使って正確に「どちらの会社を指しているのか」を指し示す技術が使われています。

法務英語では、複数の名詞が登場した際に「どちらを指すか」を明確にするために、このような指示代名詞や関係代名詞が非常に厳密に活用されます。


Article 8(人事異動)は、会社の機動力を確保するための側面と、労働者の生活を守るための側面を併せ持っています。

  1. "order to change"
    業務上の必要性(necessary for the business operation)に基づく命令権を確立する。
  2. "second... to a different company"
    在籍出向を命じるための法的根拠を明記する。
  3. "consider childcare and family care"
    命令権を行使する際、育児や介護という個人的事情への配慮義務を忘れない。

特に外国人社員の場合、「会社が住居の移転を伴う転勤を一方的に命じる」という文化に馴染みがない場合も多いです。この条文を丁寧に説明し、日本の法制度(育児・介護休業法など)に基づいた合理的な運用であることを示すことで、信頼関係を構築するようにしましょう。

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