厚生労働省「モデル就業規則(英語版)」解説 Article 11 (Compliance Provisions):就業規則の「遵守事項」を英語で定義する
厚生労働省の「モデル就業規則(英語版)」を詳しく、かつ「受験英語」のような視点で分かりやすく解説していきます。
【出典】https://www.mhlw.go.jp/content/001456902.docx
このブログは、外国人社員の採用に伴い英語の就業規則を整備する必要があり、単なる翻訳ではない「生きた法務英語」の理解を目指している経営者や人事担当者の皆様に向けて執筆しています。
前回は第10条の「服務(Responsibilities)」を通じて、労働者が持つべき基本的な心構えについて学びました。今回取り上げるのは、第3章「服務」の核心部分である第11条「遵守事項(Compliance Provisions)」です。ここでは、具体的な「禁止事項」がリストアップされており、職場の秩序を維持するための具体的なルールが英語で定義されています。
1.条文チェック
(Compliance Provisions)
Article 11 Workers must comply with the following matters:
(a) Workers must not use the company’s facilities or articles for purposes outside the course of their employment without permission.
(b) Workers must not engage in any unlawful activities, such as pursuing their own profit or soliciting in relation to their job responsibilities, borrowing money or goods, or receiving gifts from others in an unjust manner.
(c) Workers must devote themselves to their job responsibilities, and must not leave their workplace without good reason.
(d) Workers must not engage in any activities that damage the company’s reputation and credibility.
(e) Workers must not disclose confidential information concerning the companies or clients they became acquainted with in the course of duties during their employment or after their retirement.
(f) Workers must not work under the influence of alcohol.
(g) Workers must not engage in any activities that are inappropriate as workers.(遵守事項)
第11条 労働者は、次の事項を守らなければならない。
(a) 許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用しないこと。
(b) 職務に関連して自己の利益を図り、若しくは贈賄等不当な行為をしないこと、又は不当に金品を借用し、若しくは贈与を受ける等の行為をしないこと。
(c) 職務に専念し、正当な理由なく勤務場所を離れないこと。
(d) 会社の名称、名誉、信用を損なうような行為をしないこと。
(e) 在職中及び退職後においても、業務上知り得た会社及び取引先等の機密を漏洩しないこと。
(f) 酒気を帯びて就業しないこと。
(g) その他労働者として不適切な行為をしないこと。
2.重要語彙と文法
この条文には、禁止行為を表現するための動詞や名詞が豊富に含まれています。
・compliance [kəmpláiəns](名詞):遵守、コンプライアンス
第3条でも登場しましたが、動詞 comply [kəmplái] の名詞形です。Provision [prəvíʒən](規定)と組み合わさることで「遵守すべき規定」を指します。
・disclose [disklóuz](動詞):(秘密などを)暴露する、公開する
受験英語では reveal [rivíːl] の類義語として習います。ここでは情報の「漏洩」を指す単語として使われています。反対語は conceal [kənsíːl](隠す)です。
・acquainted with [əkwéintid wíð](形容詞句):〜と知り合いである、〜をよく知っている
be acquainted with の形で「〜を熟知している」という意味になります。ここでは「業務を通じて知り得た(情報)」という文脈で使われています。
・reputation [rèpjutéiʃən](名詞):評判、名声
会社が社会的に受けている評価を指します。damage the company's reputation で「会社の評判を傷つける」という決まり文句になります。
・credibility [krèdəbíləti](名詞):信頼性、確実性
形容詞 credible [krédəbl](信頼できる)の名詞形です。ビジネスの基盤となる「信用」を意味します。
・unjust [ʌndʒʌ́st](形容詞):不当な、不公平な
名詞 justice [dʒʌ́stis](正義)に否定の接頭辞 un- がついた形です。in an unjust manner で「不当な方法で」となります。
3.実務への応用:自社ルールに合わせて書き換える際の注意点
第11条の遵守事項は、第68条の「懲戒の事由」と密接にリンクしています。経営者や人事担当者がカスタマイズする際のポイントは以下の通りです。
① 禁止事項を具体化する
厚生労働省のガイドラインによれば、遵守事項は必ずしも就業規則に記載しなければならない項目ではありませんが、職場の秩序を維持する上で重要な役割を果たすとされています。そのため、自社の業種に合わせて、例えば「IT企業であればセキュリティ規定」、「営業職であれば贈答品の制限」など、より具体的な項目を追加することが可能です。
② 機密保持の範囲
(e) 「confidential information concerning the companies or clients」という表現は、自社の情報だけでなく「取引先の情報」も含んでいます。退職後(after their retirement)の守秘義務も明記されている点が非常に重要です。ただし、あまりに広範囲な制限は職業選択の自由を妨げると判断されるリスクもあるため、対象となる情報の定義を明確にしておくことが望ましいでしょう。
③ 包括的規定の活用
(g)の「労働者として不適切な行為」という一文は、(a)から(f)に具体的に当てはまらない予期せぬ不祥事に対応するための「受け皿」です。実務上、この一文があることで、会社は新しいタイプのハラスメントやネット上の不適切な投稿などに対しても、会社としてのスタンスを示す根拠を持つことができます。
4.ワンポイント英文法
今回の条文から学ぶのは、項目(e)に含まれる「関係代名詞の省略(接触節)」の構造です。
...confidential information concerning the companies or clients (that) they became acquainted with...
受験英語の読解で、名詞の直後に「主語+動詞」が続く場合、そこに関係代名詞の目的格が隠れていると見抜く力が必要です。
・構造の分解
先行詞は the companies or clients(会社や取引先)です。本来は that や whom といった関係代名詞が入りますが、法務文書でもしばしば省略されます。
・前置詞の「置き去り」
they became acquainted with という節の最後にある with に注目してください。熟語 be acquainted with の「with の目的語」が欠けており、それが先行詞となっていることがわかります。
このように、「名詞+S+V」の形を見つけたら「どんな名詞か」を後ろから説明しているサインだと捉えましょう。これにより、「彼らが(業務の過程で)知り合うことになった会社や取引先」という修飾関係を正確に読み解くことができます。
5.まとめ
Article 11は、従業員に対して「やってはいけないこと」を明確に示すことで、トラブルを未然に防ぐフィルターの役割を果たしています。
- 会社の資産や時間の適切な利用
- 不当な利益追求や信用失墜行為の禁止
- 機密情報の厳格な管理
これらを英語で明確に規定しておくことは、特に「暗黙の了解」が通じにくい多様な文化を持つ従業員を雇用する際に、公平で透明性の高いマネジメントを実現するための強力なツールとなります。項目(g)のような包括的な表現を含めつつ、自社の業態に合わせた「守るべきライン」を再確認してみてください。

