厚生労働省「モデル就業規則(英語版)」解説 Article 15(Prohibition of Various Other Types of Harassment):就業規則の「その他の様々なハラスメントの禁止」を英語で定義する

厚生労働省の「モデル就業規則(英語版)」を詳しく、かつ「受験英語」のような視点で分かりやすく解説していきます。

【出典】https://www.mhlw.go.jp/content/001456902.docx

このブログは、外国人社員の採用に伴い英語の就業規則を整備する必要があり、単なる翻訳ではない「生きた法務英語」の理解を目指している経営者や人事担当者の皆様に向けて執筆しています。

前回は、妊娠、出産、育児休業等に関するハラスメントの禁止について解説しました。今回取り上げるのは、同じく第3章「服務」の最後を締めくくるハラスメント規定である第15条「その他の様々なハラスメントの禁止(Prohibition of Various Other Types of Harassment)」です。

近年、企業におけるハラスメント対策は多様化しています。パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントだけでなく、個人の尊厳を傷つけるあらゆる嫌がらせの禁止が求められるようになりました。英語の条文がこれをどのように包括的に規定しているのか、またその法的な意義を詳しく見ていきましょう。

(Prohibition of Various Other Types of Harassment)
Article 15 In addition to the provisions stipulated from Article 12 to the preceding article, workers are prohibited from damaging the work environment of other workers by any form of harassment in the workplace, such as through speech or behavior related to sexual orientation and gender identity.

(その他の様々なハラスメントの禁止)
第15条 前3条に規定するもののほか、労働者は、職場において、性的指向、性自認に関する言動によるものなど、他の労働者の就業環境を害するようなあらゆるハラスメントを行ってはならない。

この条文には、多様性の尊重とハラスメント防止に関する重要な語彙が含まれています。

・harassment [hərǽsmənt](名詞):ハラスメント、嫌がらせ
動詞 harass(〜を絶えず悩ませる、苦しめる)の名詞形です。語尾の -ment は名詞を作る接尾辞です。

・preceding [prisíːdɪŋ](形容詞):前の、先行する
第2回や第6回でも登場しましたが、the preceding article で「前条」を指します。ここでは、第12条から第14条までの内容を指すために、前条までの規定という形で使われています。

・stipulate [stìpjuléɪt](動詞):規定する、明文化する
ここでは過去分詞 stipulated の形で、直前の名詞 the provisions を後ろから修飾しています。

・orientation [ɔ̀ːriəntéiʃən](名詞):方向付け、志向
受験英語では「(新入生などの)説明会」という意味でおなじみですが、sexual orientation で「性的指向(どのような性別の人に恋愛感情や性的感情を抱くか)」を意味する重要な社会用語となります。

・identity [aidéntəti](名詞):同一性、自己認識
gender identity で「性自認(自分の性別をどのように認識しているか)」という意味になります。

経営者や人事担当者の皆様が、この包括的なハラスメント禁止規定を自社に導入する際、以下の3点に留意する必要があります。

① SOGIハラへの対応
この条文に明記されている「sexual orientation(性的指向)」と「gender identity(性自認)」に関するハラスメントは、頭文字をとって「SOGIハラ」と呼ばれることがあります。厚労省資料によれば、性的指向や性自認に関する理解を深めることは、差別的な言動やハラスメントを防止するために極めて重要であるとされています。英語規定にこれらを明示することは、会社が多様性を尊重する姿勢を社内外に示す強いメッセージになります。

② 包括的禁止の「受け皿」としての機能
第12条(パワハラ)、第13条(セクハラ)、第14条(マタハラ・ケアハラ)に該当しないハラスメントであっても、本条の「any form of harassment in the workplace(職場におけるあらゆる形態のハラスメント)」という規定によって網羅されます。これにより、例えばカスタマーハラスメント(カスハラ)やモラルハラスメントなど、多様化する他のハラスメントに対しても会社が適切な対応をとるための法的根拠となります。

③ 懲戒規定との一貫性
ハラスメントに関する規定を設ける場合、ソースに示されている通り、管理職を含むすべての労働者に対して方針を周知徹底するだけでなく、違反者に対する懲戒処分(第12章)を明確に定めておく必要があります。「あらゆるハラスメントを許さない」という宣言が、実効性のある処分規定に裏打ちされていることが、実務上のポイントです。

今回の条文から学ぶのは、前置詞「to」を伴う重要表現「in addition to 〜」です。

In addition to the provisions stipulated...

受験英語の文法問題で非常によく狙われる「前置詞としての to」を再確認しましょう。

・「to = 不定詞」という思い込みの罠
多くの学習者は to を見ると、直後に動詞の原形(不定詞)を置きたくなります。しかし、「in addition to」の to は「前置詞」です。そのため、後ろには必ず名詞(ここでは the provisions)や、動名詞(-ing)が来ます。もし「〜することに加えて」と動作を置きたい場合は、In addition to do ではなく In addition to doing と動名詞にする必要があります。同様の「前置詞の to」を持つ熟語には、look forward to doing(〜するのを楽しみに待つ)や be used to doing(〜するのに慣れている)などがあります。

このように、熟語の末尾にある to が「不定詞の to」なのか「前置詞の to」なのかを区別する視点を持つと、就業規則を正確に書き換える際や、英語の長文を読む際のミスの確率を大幅に減らすことができます。

Article 15は、個別の条文で網羅しきれない多様なハラスメントを包括的に防ぐための重要な防衛線です。

  1. in addition to the provisions: 既定のハラスメント防止ルールを補完し、
  2. any form of harassment: 職場におけるあらゆる形態の嫌がらせを禁止し、
  3. sexual orientation and gender identity: 性的指向や性自認といった個人の尊厳に関わる言動も明確に保護対象とする。

外国人従業員を採用する際や、多様な人材が活躍する組織を築く上で、この包括規定を英語で明確に示しておくことは、公平で働きやすい就業環境の基礎となります。

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