厚生労働省「モデル就業規則(英語版)」解説 Article 12 (Prohibition of Power Harassment at the Workplace):就業規則の「職場におけるパワーハラスメントの禁止」を英語で定義する
厚生労働省の「モデル就業規則(英語版)」を詳しく、かつ「受験英語」のような視点で分かりやすく解説していきます。
【出典】https://www.mhlw.go.jp/content/001456902.docx
このブログは、外国人社員の採用に伴い英語の就業規則を整備する必要があり、単なる翻訳ではない「生きた法務英語」の理解を目指している経営者や人事担当者の皆様に向けて執筆しています。
前回までは、労働者が守るべき一般的なルールである「遵守事項」を確認しました。今回からは「ハラスメント」の規定に入ります。その第一弾として、第3章「服務」の第12条「職場におけるパワーハラスメントの禁止(Prohibition of Power Harassment at the Workplace)」を解説します。
1.条文チェック
(Prohibition of Power Harassment in Workplace)
Article 12 Workers are prohibited from engaging in any activities that take advantage of their positions of authority in employment or work relationships, which go beyond the necessary and reasonable scope of job responsibilities and are damaging to the work environment for other workers.(職場におけるパワーハラスメントの禁止)
第12条 労働者は、職務上の地位や人間関係などの優位性を背景とした、業務上必要かつ相当な範囲を超えた、他の労働者の就業環境を害する行為をしてはならない。
2.重要語彙と文法
・prohibit [prouhíbɪt](動詞):禁止する
「prohibit + 目的語 + from + 〜ing」の形で「(目的語)が〜するのを禁止する」という受験英語の重要構文を作ります。この条文では受動態(are prohibited from...)の形で使われています。
・engage in [enɡéidʒ in](句動詞):〜に従事する、〜を行う
単に do と言うよりも、継続的な活動や特定の行為に加わるニュアンスが強まります。
・take advantage of [téik ədvǽntidʒ əv](熟語):〜を利用する、〜に乗じる
本来は「〜を活かす」というポジティブな意味もありますが、法務文書では「(地位などを)悪用する、利用する」という文脈で使われます。条文内の take advantage of their positions of authority で「職務上の地位の優位性を利用する」となります。
・authority [əθɔ́ːrəti](名詞):権限、権威
職務上のパワー(優位性)を指します。
・reasonable [ríːznəbl](形容詞):合理的な、妥当な
受験英語では「(値段が)手ごろな」という意味で覚えがちですが、法務では「理にかなった、相当な」という客観的な判断基準を指す超重要単語です。
・scope [skóup](名詞):範囲
第2条の Scope of application でも登場しましたが、ここでは業務の「限界点」を指します。
・damaging [dǽmədʒiŋ](形容詞):有害な、損害を与える
動詞 damage の現在分詞が形容詞化したもので、就業環境を「害している」状態を修飾しています。
3.実務への応用:自社ルールに合わせて書き換える際の注意点
パワーハラスメントの規定を設ける際、経営者や人事担当者は以下の法的背景を理解しておく必要があります。
① 法律による義務化
事業主は職場におけるパワーハラスメントを防止するため、雇用管理上必要な措置を講じなければならないと定められています(労働施策総合推進法第30条の2)。 この第12条を設置することは、単なる努力義務ではなく、法律に基づく「防止措置」の第一歩となります。
② パワハラの3要素の明文化
この条文には、日本の厚生労働省が定義するパワハラの3つの要素がすべて英語で盛り込まれています。
1.優位性を背景とした言動(take advantage of their positions of authority)
2.業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの(go beyond the necessary and reasonable scope)
3.就業環境を害するもの(damaging to the work environment)
英語で規定を作成する際、これらのキーワードを削ってしまうと、日本の法律上の定義とズレが生じる可能性があるため注意が必要です。
③ 相談窓口との連携
条文で「禁止」を宣言するだけでは不十分です。厚生労働省のガイドラインでは、ハラスメントの内容や方針を労働者に周知徹底することに加え、苦情や相談に応じる体制を整えることも求められています。 実際の運用では、この第12条と合わせて、相談窓口の連絡先などを別途通知することが実務的です。
4.ワンポイント英文法
今回の条文から学ぶのは、一つの先行詞(activities)を複数の関係代名詞節が修飾する「二重限定」に近い構造です。
Workers are prohibited from engaging in any activities (1) [that take advantage of...] (2) [which go beyond...] and (3) [(which) are damaging...].
このように修飾語が長く続く文章は骨格を見失いやすいポイントです。
・ポイント1:先行詞の特定
ここでの先行詞は any activities(いかなる行為)です。
・ポイント2:修飾の連鎖
that 以下の節が「優位性を利用する行為」であることを説明し、さらにカンマで区切られた which 以下の節が「業務の範囲を超え、かつ環境を害する行為」であることを追加説明しています。
・ポイント3:and の役割
最後にある and は、which 節の中にある two の述語(go beyond... と are damaging...)を繋いでいます。
この構造を理解すると、法律が「どんな行為」を禁止しようとしているのか、その条件(優位性、逸脱性、環境悪化)を一つひとつ正確に抽出できるようになります。
5.まとめ
Article 12は、職場からパワーハラスメントを排除するという会社としての強い姿勢を示す宣言です。
- take advantage of: 地位や人間関係の優位性を利用させない。
- beyond the reasonable scope: 業務指導の範疇を越えさせない。
- damaging to the work environment: 職場環境を悪化させない。
これらの要素を英語で定義しておくことは、特に「指導」と「ハラスメント」の境界線が曖昧になりがちな多文化な職場において、共通の判断基準を持つために非常に有効です。経営者としては、この英文をもとに、健全な職場秩序の維持に努めてください。

