厚生労働省「モデル就業規則(英語版)」解説 Article 14(Rules Concerning Maternity, Child Care and Family Care Leave for Prohibition of Harassment):就業規則の「職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの禁止」を英語で定義する

厚生労働省の「モデル就業規則(英語版)」を詳しく、かつ「受験英語」のような視点で分かりやすく解説していきます。

【出典】https://www.mhlw.go.jp/content/001456902.docx

このブログは、外国人社員の採用に伴い英語の就業規則を整備する必要があり、単なる翻訳ではない「生きた法務英語」の理解を目指している経営者や人事担当者の皆様に向けて執筆しています。

前回はセクシュアルハラスメントの禁止について学びました。今回取り上げるのは、同じく第3章「服務」の第14条「職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの禁止(Rules Concerning Maternity, Child Care and Family Care Leave for Prohibition of Harassment)」です。

妊娠、出産、そして育児や介護といったライフイベントと仕事を両立させるための制度を利用する従業員に対して、周囲が不適切な言動を行うことは法的に固く禁じられています。この条文から、現代の労務管理に必要な表現と、法律英語ならではの表現技法を学びましょう。


(Rules Concerning Maternity, Child Care and Family Care Leave for Prohibition of Harassment)
Article 14 Workers are prohibited from damaging the work environment of other workers by way of speech or behavior related to maternity and speech or behavior related to the use of systems or measures intended for maternity, child care and family care.

(職場における妊娠、出産、育児休業等に関するハラスメントの禁止)
第14条 労働者は、妊娠、出産、育児・介護休業等に関する制度又は措置の利用に関する言動により、他の労働者の就業環境を害するような行為をしてはならない。


・maternity [mətə́ːrnəti](名詞):妊娠(していること)、母性
受験英語ではあまりなじみがないかもしれませんが、ビジネスや行政では「マタニティ」として非常によく使われる単語です。

・intended [ɪnténdɪd](形容詞・過去分詞):〜を意図した、〜を対象とした
動詞 intend(〜を意図する)の過去分詞から派生し、後ろに for などを伴って「〜向けに設計された」「〜のための」という意味を表します。

・child care [tʃáɪld kɛər](名詞):育児、子育て
子供(child)をケア(care)することから、育児全般を指します。

・family care [fǽməli kɛər](名詞):介護、家族の世話
高齢や病気の家族を看護・介護することを指します。

・measure [méʒər](名詞):措置、対策
受験英語では「測定する」という動詞や「寸法」という意味が優先されがちですが、法務・ビジネスでは「(目的を達成するための)手段、措置」という意味が主流になります。


妊娠・出産や育児・介護に関するハラスメント、いわゆるマタニティハラスメント(マタハラ)やケアハラスメント(ケアハラ)の禁止規定を運用する際、経営者や人事担当者は以下の実務ポイントに留意する必要があります。

① 法令に基づく防止措置の義務
男女雇用機会均等法第11条の3、および育児・介護休業法第25条により、事業主は職場における妊娠、出産、育児休業、介護休業等に関するハラスメントを防止するため、雇用管理上必要な措置を講じなければならないと定められています。第14条は、この義務を果たすための重要な就業規則上の根拠となります。

② ハラスメントの2つの側面に注意
このハラスメントには、大きく分けて2つの側面があります。
1.妊娠や出産という「状態」そのものに対する不適切な言動(speech or behavior related to maternity)2.育児休業や時短勤務などの「制度や措置の利用」に対する不適切な言動(speech or behavior related to the use of systems or measures) 「制度を使うこと」に対する嫌がらせも明確に禁止範囲に含まれていることを、英語規定でも正確に表現しておく必要があります。

    ③ 男性従業員の育児休業への配慮
    「child care(育児)」に関するハラスメント防止は、当然ながら男女を問いません。男性の育児休業取得(いわゆるパタハラ防止)についても、この条文をベースにして社内周知と管理職研修を徹底することが、企業としてのリーガルリスクを低減させることにつながります。


    今回の条文から学ぶのは、法務文書における「曖昧さを回避するための名詞の反復(Repetition of Nouns)」です。

    ...by way of speech or behavior related to maternity and speech or behavior related to the use of systems...

    受験英語のライティングや文法問題では、同じ名詞の繰り返しを嫌い、代名詞(itやthem)や、that/those(例:that of maternity)に置き換えるように指導されます。しかし、法律英語や契約書では、全く異なるルールが適用されます。

    ・代名詞による「解釈の揺れ」を防ぐ もしこの文章を 「speech or behavior related to maternity and those related to the use of systems」と書いてしまうと、those が指すものが speech or behavior なのか、あるいは別の複数名詞なのか、解釈の余地が1パーセントでも生まれてしまう可能性があります。

    ・あえて無骨に繰り返す 法務文書では、エレガントさよりも「一意に伝わる正確さ」が最優先されます。そのため、同じ表現(speech or behavior)をあえて完全に繰り返すことで、どちらも「言動」を指していることを論理的に確定させています。

    このように、受験英語の「代名詞でスマートに置き換える」という常識をあえて破るのが法律英語の特徴です。この視点を持つと、就業規則の英文がなぜこれほどまでに同じ単語を繰り返すのか、その理由が論理的に理解できるようになります。


    Article 14は、妊娠・出産や育児・介護という人生の重要な局面において、従業員がハラスメントに怯えることなく働ける環境を約束する条文です。

    1. speech or behavior related to maternity: 妊娠や出産という状態への嫌がらせを許さない。
    2. speech or behavior related to the use of systems: 育休や時短などの制度利用を阻害させない。
    3. intended for maternity, child care and family care: 法律が定める多様な両立支援措置を包括的に保護する。

    厚生労働省の資料に示されている通り、ハラスメントを防止するための周知徹底は、すべての企業において雇用管理上の義務となっています。外国人社員や管理職に対して、「なぜこのハラスメントが禁止されているのか」をこの条文とともに丁寧に説明し、多様性を尊重する健全な職場環境を維持していきましょう。

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