厚生労働省「モデル就業規則(英語版)」解説 Article 5 (Documents to be submitted at hiring):就業規則の「採用時の提出書類」を英語で定義する
厚生労働省の「モデル就業規則(英語版)」を詳しく、かつ「受験英語」のような視点で分かりやすく解説していきます。
【出典】https://www.mhlw.go.jp/content/001456902.docx
このブログは、外国人社員の採用に伴い英語の就業規則を整備する必要があり、単なる翻訳ではない「生きた法務英語」の理解を目指している経営者や人事担当者の皆様に向けて執筆しています。
前回は「採用手続(Article 4)」について学びましたが、選考を通過した後に待っているのが、今回取り上げる第2章「採用及び異動」の第5条「採用時の提出書類(Documents to be submitted at hiring)」です。
企業が従業員から個人情報を収集する際、英語でどのように規定し、また日本の個人情報保護や人権の観点からどのような表現を選ぶべきか。実務と英語の両面から見ていきます。
1. 条文チェック
(Documents to be Submitted at Hiring)
Article 5 A person who is hired as a worker is required to submit the following documents within _____ weeks from the day they are hired.
(a) Certificate of items stated in the resident register;
(b) Copy of Driver’s License (for those who have a driver’s license);
(c) Copies of certificates of qualifications (for those who have certificates of qualifications);
(d) Other documents specified by the company;
2. In the event that any changes occur in any documents set out in the preceding paragraph after submission, the worker must immediately notify the company of such changes in written form.【日本語訳】
(採用時の提出書類)
第5条 労働者として採用された者は、採用された日から__週間以内に、次の書類を提出しなければならない。
(a) 住民票記載事項証明書
(b) 運転免許証の写し(運転免許証を有している者に限る)
(c) 資格証明書の写し(資格証明書を有している者に限る)
(d) その他会社が指定する書類
2. 提出した書類の内容に変更が生じたときは、労働者は、速やかに書面により会社に届け出なければならない。
2. 重要語彙と文法
- be required to [biː rɪkwáɪərd túː](群動詞):〜するように求められている、〜しなければならない
Must や Shall よりも「制度上、そう決まっている」という客観的な義務感が出る表現です。受験英語では「〜する必要がある」と訳されますが、就業規則では強力な「義務」を指します。 - certificate of items stated in the resident register(名詞句):住民票記載事項証明書
Resident register が「住民票(住民基本台帳)」、stated in が「〜に記載された」という意味になります。 - in the event that [ɪn ðə ɪvént ðæt](接続詞的表現):〜の場合には
If の非常にフォーマルな形です。「万が一、〜という事態(event)が生じた際には」というニュアンスで、契約書や規程の定番フレーズです。 - notify [nóʊtəfàɪ](動詞):(正式に)通知する、届け出る
単に tell(言う)や inform(知らせる)ではなく、公的な届け出や通知を指します。 - in written form [ɪn rítn fɔ́ːrm](形容詞句):書面で
口頭(verbally)ではなく、記録に残る形での提出を求める際に使います。In writing とも書き換え可能です。
3. 実務への応用:自社ルールに合わせて書き換える際の注意点
経営者・人事担当者の皆様が最も注意すべきは、(a)の「住民票記載事項証明書」の指定です。
① なぜ「住民票の写し」ではないのか?
日本の厚生労働省のガイドライン(ソース)では、本人確認や年齢確認のために「住民票の写し(Copy of resident register)」や「戸籍謄本(Family register)」をそのまま提出させることは、プライバシー保護や差別の防止という観点から「適切ではない(not appropriate)」とされています。 そのため、必要な情報(氏名、生年月日、住所など)だけを抜粋した「住民票記載事項証明書」を求めるのが実務上のスタンダードです。英語の規定でも、安易に Copy of resident register と書き換えず、モデルの表現を維持することをお勧めします。
② 目的の明示
厚労省の資料では、会社は書類の提出を求める際、その「目的を明確にする(clarify the purposes)」べきであるとされています。 例えば「社会保険手続き及び税務処理のため」といった目的を別途通知するか、(d)の項目を利用して「目的を明示した上で会社が指定する書類」といった形にカスタマイズすることが考えられます。
③ 変更届の重要性(第2項)
第2項の「変更時の届け出」は、通勤手当の計算や社会保険の住所変更手続きに直結します。外国籍社員の場合、在留カードの更新情報などもここに含まれるよう、運用上は(d)に「在留カードの写し」を含めておくことが一般的です。
4. ワンポイント英文法
今回は、タイトルの "Documents to be submitted at hiring" に使われている、不定詞の形容詞的用法+受動態です。
Documents to be submitted
受験英語で「不定詞の形容詞的用法」といえば、「〜するための、〜すべき」と名詞を修飾する用法ですね。
- 未来と義務のニュアンス
単なる Submitted documents(提出された書類)と異なり、to be submitted とすることで「(これから)提出されるべき書類」という、将来の義務が含まれた強い修飾になります。 - 受動態の形
Documents は「提出される」側なので、to submit ではなく、to be submitted と受動態にする必要があります。
この「名詞 + to be + 過去分詞」という形は、就業規則の項目名(例:Matters to be observed 「遵守すべき事項」)などで頻繁に登場します。「これから義務として行われるべきこと」をスマートに表現する、まさに法務英語でよく見かける構文です。
5. まとめ
Article 5は、会社が従業員から正確な情報を収集するための「法的根拠」を定めるものです。
- "is required to": 提出を必須の義務として規定する。
- "Certificate of items stated in the resident register": プライバシーに配慮した適切な書類名称を使用する。
- "In the event that any changes occur": 常に最新の情報を維持するための変更通知義務を課す。
特に、住民票の扱いに関する「行政上の配慮」が英語表現にも反映されている点は、日本の就業規則ならではの特徴です。外国人社員に説明する際も、「これはプライバシーを守りつつ、法的手続きを正確に行うためです」と付け加えることで、信頼関係の構築にも繋がります。

