厚生労働省「モデル就業規則(英語版)」解説 Article 7 (Clear Declaration of Terms and Conditions of Employment):就業規則の「労働条件の明示」を英語で定義する

厚生労働省の「モデル就業規則(英語版)」を詳しく、かつ「受験英語」のような視点で分かりやすく解説していきます。

【出典】https://www.mhlw.go.jp/content/001456902.docx

このブログは、外国人社員の採用に伴い英語の就業規則を整備する必要があり、単なる翻訳ではない「生きた法務英語」の理解を目指している経営者や人事担当者の皆様に向けて執筆しています。

採用を決めた際、会社は労働者に対して「どのような条件で働くのか」をはっきりと示さなければなりません。これは単なるマナーではなく、日本の労働基準法に基づく厳格な義務です。この条文には、実務で必須の表現と、英語の基礎体力を問う構文が詰まっています。


(Clear Declaration of Terms and Conditions of Employment)
Article 7 In the event of hiring a worker, a company is required to clearly declare the terms and conditions of employment in writing by issuing a notice that states matters such as wages, the location of employment, responsibilities, working hours, and days off in conjunction with the rules of employment.

(和訳:労働条件の明示)
第7条 会社は、労働者の採用に際しては、採用時までに、賃金、就業の場所、従事する業務の内容、労働時間、休日その他の労働条件を書面(就業規則を含む。)の交付により明示するものとする。


この条文は、一つの文章の中に多くの情報を詰め込む「法務英語」の典型的な構造をしています。

  • In the event of [ɪn ðə ɪvént ʌv](群前置詞):〜の際には、〜に際して
    通常はIfIn case of の書き換えとして登場します。In the event of hiring で「採用の際(採用というイベントが発生した時)」という意味になります。
  • Clearly declare [klíərli dɪkléər](動詞句):明示する、はっきりと宣言する
    Declare は「宣言する」「(税関で)申告する」という意味ですが、ここでは「(条件を)隠さずはっきりと示す」というニュアンスです。
  • Terms and conditions [tə́rmz ænd kəndɪ́ʃənz](名詞句):労働条件、諸条件
    第3回でも登場した最重要フレーズです。日本の労働法における「労働条件」の定型訳です。
  • In writing [ɪn ráɪtɪŋ](副詞句):書面で
    口頭(verbally)ではなく、形に残る手段を指します。後続の by issuing a notice(通知書を交付することによって)とセットで、明示の手段を具体化しています。
  • In conjunction with [ɪn kəndʒʌ́ŋkʃən wɪð](群前置詞):〜と相まって、〜と結びついて
    通常は「〜と併用して」「〜と共に」と訳されます。ここでは、個別の通知書だけでなく「就業規則(rules of employment)とセットで」労働条件を示すという意味で使われています。

経営者・人事担当者の皆様が「労働条件の明示」を行う際、日本の労働基準法(Labor Standards Act)に照らして絶対に外せないポイントが2点あります。

① 「絶対的明示事項」の網羅
労働基準法第15条により、以下の項目は必ず書面で交付しなければなりません。

  • 契約期間(period of the labor contract
  • 更新の基準(有期契約の場合)
  • 就業場所と業務内容(location of employment and responsibilities
  • 始業・終業時刻、休憩、休日、休暇(working hours, and days off
  • 賃金の決定、計算、支払方法、締日、支払日(wages
  • 退職・解雇に関する事項(retirement / dismissal) これらが一つでも欠けると、罰則の対象となる可能性があります。

② 電子的明示のルール
近年、法改正により電子メールやSNS(LINE, Facebook等)での明示も認められるようになりました。ただし、以下の条件に注意してください。

  • 労働者が希望した場合に限ること。
  • 印刷して書面(ハードコピー)を作成できる形式であること。 ホームページやブログなど、不特定多数が見られる場所への掲載は「明示」とは認められません。

今回の条文から学ぶのは、名詞 notice を修飾する "that" による関係代名詞節 です。

...issuing a notice that states matters such as wages...

受験英語の読解において、関係代名詞 that は基本中の基本ですが、法務文書では「その文書が何を規定しているか」を説明するために多用されます。

  • ポイント:無生物主語と動詞 state
    Notice(通知書)という「物」が主語になり、states(〜を述べる、明記する)という動詞を伴っています。日本語では「賃金などの事項が記載された通知書」と受動態的に訳すのが自然ですが、英語では「通知書が〜という事項を述べている(明記している)」と能動態で書くのが一般的です。
  • "such as" による例示
    Matters such as A, B, and C(A, B, Cといった事項)という形になっています。法務英語では、明示しなければならない項目が多岐にわたるため、このように such as を使ってリストアップする構造がよく見られます。

この「名詞(文書名)+ that states / stipulates / sets forth...」という形をマスターすると、契約書や就業規則の主文を正確に読み解けるようになります。


Article 7は、会社に従業員への「情報の透明性」を求める条文です。

  1. "In writing": 後の紛争を防ぐため、口約束ではなく必ず書面(または法に則った電子媒体)で残す。
  2. "Mandatory items": 賃金や時間など、法で定められた項目を漏れなく盛り込む。
  3. "In conjunction with the rules": 個別の通知書と、会社全体のルールである就業規則を両輪として明示する。

外国人社員を雇用する場合、母国の習慣とは異なる日本の「書面明示義務」を正しく理解してもらうことが、信頼関係の第一歩となります。「何が書いてあるか」だけでなく、「なぜ書面で渡す必要があるのか(日本の法律に基づいているから)」を本条文とともに説明できるようにしておきましょう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA