厚生労働省「モデル就業規則(英語版)」解説 Article 16(Protection of Personal Information):就業規則の「個人情報の保護」を英語で定義する

厚生労働省の「モデル就業規則(英語版)」を詳しく、かつ「受験英語」のような視点で分かりやすく解説していきます。

【出典】https://www.mhlw.go.jp/content/001456902.docx

このブログは、外国人社員の採用に伴い英語の就業規則を整備する必要があり、単なる翻訳ではない「生きた法務英語」の理解を目指している経営者や人事担当者の皆様に向けて執筆しています。

前回は、職場における様々なハラスメントの包括的な禁止について解説しました。今回取り上げるのは、第3章「服務」の第16条「個人情報の保護(Protection of Personal Information)」です。

現代のビジネスにおいて、情報の漏洩は企業の死活問題となります。自社の機密情報だけでなく、顧客や取引先の個人情報をどのように守るべきか、英語の条文構造とともに法的背景を整理していきましょう。

まず、モデル就業規則第16条の英文と、その和訳を確認しましょう。

(Protection of Personal Information)
Article 16 Workers shall pay due care to the management of information concerning the company and clients, etc., and must not unlawfully obtain information that is irrelevant to their duties. 2. In the event that a worker is transferred to a different workplace or position or retires, they must immediately return data or documents which they were handling, that contain information concerning the company and clients.

(個人情報の保護)
第16条 労働者は、会社及び取引先等に関する情報の管理に十分な注意を払うとともに、業務に関係のない情報を不当に取得してはならない。 2. 労働者は、勤務場所若しくは職務の変更又は退職に際しては、取り扱っていた会社及び取引先等に関する情報が含まれるデータ又は書類を、速やかに会社に返還しなければならない。

この条文には、情報の取り扱いに関する厳格な名詞や動詞が並んでいます。

due care [djúː kɛ́ər](名詞句):十分な注意、相当な注意
受験英語でも頻出の due は「支払期日の来た」や「当然支払われるべき」という意味がありますが、名詞の前に置かれると「当然払うべき、適切な、十分な」という意味になります。

・unlawfully [ʌnlɔ́ːfəli](副詞):不当に、不法に
法律(law)に接尾辞 -ful(〜に満ちた)がつき、さらに否定の接尾辞 un-、副詞化の -ly が組み合わさった単語です。

・irrelevant [iré ləvənt](形容詞):無関係な、見当違いの
関連のある(relevant)の頭に、否定の接頭辞 ir-(in-がrの前で変化したもの)がついた形です。irrelevant to 〜 で「〜と無関係な」という重要表現になります。

・transfer [trænsfə́ːr](動詞):(人を)異動させる、転勤させる
第8条でも名詞として登場しましたが、ここでは受動態(is transferred)の形で「異動させられる」という意味で使われています。

・handle [hǽndl](動詞):取り扱う、処理する
受験英語でも「(問題などに)対処する」という意味でおなじみの他動詞です。ここでは関係代名詞 which 節の中で「扱っていた」状態を指しています。

個人情報保護の規定を設ける際、経営者や人事担当者は以下の実務ポイントに留意する必要があります。

① 個人情報保護法に基づく企業の義務
日本において個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)が全面施行されて以来、事業主は個人情報の適正な管理を行うために必要な措置を講じる義務を負っています。この第16条を設置することは、従業員に個人情報の適切な管理を徹底させるための必須の社内規律となります。

② 情報の「不当取得」の禁止
第1項では、会社や取引先の情報の管理に注意を払うことだけでなく、自分の「業務に関係のない情報(information that is irrelevant to their duties)」を不当に取得することを禁じています。例えば、他部署のフォルダにアクセスして顧客名簿を無断で閲覧する行為などは、この規定を根拠に服務規律違反として指導することができます。

③ 異動・退職時のデータ返還義務
第2項は実務上非常に重要です。従業員が異動(transferred)または退職(retires)する際、それまで取り扱っていたデータや書類(data or documents which they were handling)を直ちに返還する義務を課しています。近年はUSBメモリなどの物理的な媒体だけでなく、個人のクラウドストレージやスマートフォン内の業務アプリにデータが残るケースが増えているため、返還させる「データ」の定義を自社のセキュリティ環境に合わせて明確にしておくことが推奨されます。

今回の条文から学ぶのは、現在分詞から前置詞へと進化した「分詞前置詞」の用法です。

...information concerning the company and clients...

受験英語の初期では、動詞に -ing がついた形は「進行形」または「現在分詞(〜している)」と習います。しかし、いくつかの動詞は -ing の形で完全に「前置詞」として扱われるようになります。

・concerning の正体
concerning は動詞concern(〜に関わる、心配させる)の現在分詞ですが、名詞の後ろに置いて「〜に関する、〜についての」という意味を表す「前置詞」として機能します。about や regarding とほぼ同じ意味ですが、よりフォーマルな響きを持ちます。

・代表的な分詞前置詞
前置詞化した現在分詞には以下のようなものがあります。

  1. regarding 〜(〜に関して)
  2. including 〜(〜を含めて)
  3. considering 〜(〜を考慮すると)
  4. depending on 〜(〜に応じて)

・例文: We need to establish strict rules concerning personal data. (個人データに関する厳格な規則を確立する必要があります。)

このような分詞前置詞を覚えておくと、about ばかりを使って幼稚な印象になってしまうのを防ぎ、格調高い英文を書くことができるようになります。

Article 16は、会社の最も重要な資産の一つである「情報」を守るための防衛ラインです。

  1. pay due care: 個人情報の管理に十分な注意を払う。
  2. must not unlawfully obtain: 業務に関係のない情報をみだりに取得しない。
  3. immediately return data: 異動や退職の際には、関連データをすべて返還する。

外国人従業員や外部パートナーを雇用する際、情報の取り扱い基準や退職時の返還ルールを英語でクリアに示しておくことは、セキュリティ事故を未然に防ぐ上で極めて有効な対策となります。

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