介護保険の仕組みと会社・社員が知っておくべきポイント
「40歳になったら、給与明細から介護保険料が引かれるようになった」
気づいたきっかけがそれだった、という方は少なくないと思います。金額を見てはじめて「あれ、これって何だろう」と感じた方もいれば、そもそも気にも留めていなかった、という方もいるでしょう。
介護保険は、1997年に法律が制定され2000年にスタートした、比較的新しい社会保険制度です。高齢化が急速に進む日本において、「介護を社会全体で支える」という理念のもとに設計されました。医療保険や年金と同じく、現役世代が保険料を拠出して、必要な人が給付を受ける仕組みです。
この記事では、介護保険の基本的な仕組みから、会社の人事担当者が押さえておくべき実務ポイントまでを、具体的に解説します。
介護保険の「被保険者」は2種類に分かれている
介護保険には加入者のことを「被保険者」と呼びますが、これが年齢によって2つのグループに分かれています。
65歳以上の方を「第1号被保険者」といいます。市区町村が保険者(運営主体)となり、年金額が一定以上であれば年金から保険料が天引きされます。介護が必要な状態になった場合、原則として原因を問わず介護サービスを受けることができます。
40歳以上65歳未満の方は「第2号被保険者」です。会社員であれば健康保険料と一緒に毎月の給与から介護保険料が徴収されます。自営業者や専業主婦(夫)などは国民健康保険を通じて負担します。第2号被保険者が介護保険サービスを受けられるのは、加齢に伴う特定の病気(特定疾病)が原因で介護が必要になったケースに限定されています。
40歳という年齢が介護保険において重要な区切りになっているのは、この「第2号被保険者」になるタイミングがそこだからです。誕生日を迎えた月(正確には誕生日の前日が属する月)から介護保険料の徴収が始まります。
介護保険料はどのように決まるのか
会社員の場合、介護保険料は健康保険料と同じ計算方法で算出されます。標準報酬月額に介護保険料率を掛けた金額を、会社と本人が半分ずつ負担する「労使折半」の仕組みです。
介護保険料率は加入している健康保険組合によって異なります。協会けんぽ(全国健康保険協会)に加入している場合、2026年度の介護保険料率は1.62%です(年度ごとに見直しが行われます)。この料率を標準報酬月額に掛けた金額の半分が、毎月の給与から引かれる介護保険料の金額です。
自社の健康保険組合を持つ企業では料率が異なる場合があります。人事担当者は自社の適用料率を確認しておく必要があります。
要介護認定とは何か——サービスを受けるための「入り口」
介護保険サービスを利用するためには、まず市区町村の窓口に申請し、「要介護認定」を受けることが必要です。この認定なしにサービスを利用しても、介護保険は適用されません。
要介護認定とは、申請者がどの程度の介護を必要とするかを客観的に判断するプロセスです。市区町村から調査員が自宅を訪問してヒアリングを行い、主治医の意見書と合わせて「介護認定審査会」が最終的な判定を下します。
判定結果は「自立(非該当)」「要支援1・2」「要介護1〜5」の8段階に分類されます。要支援は日常生活はおおむね自立しているものの、一部支援が必要な状態です。要介護は日常的な介護が必要な状態で、数字が大きくなるほど介護の必要度が高いことを示します。
この認定区分に応じて、利用できるサービスの種類や「支給限度額」(介護保険が負担してくれる上限金額)が決まります。要介護度が高いほど支給限度額も高く設定されており、より多くのサービスを受けることができます。
介護保険で受けられるサービスの種類
要介護認定を受けた後に利用できるサービスは、大きく「居宅サービス」「施設サービス」「地域密着型サービス」の3つに分類されます。
居宅サービスは自宅で生活しながら受けるサービスです。ホームヘルパーによる訪問介護、看護師や理学療法士が自宅を訪れる訪問看護・訪問リハビリ、日帰りでデイサービスやデイケアに通う通所系サービスなどが含まれます。
施設サービスは介護施設に入居して受けるサービスです。特別養護老人ホーム(特養)、介護老人保健施設(老健)、介護医療院などがこれにあたります。費用は居宅サービスより高くなりますが、24時間対応の介護を受けられる環境が整っています。
地域密着型サービスは、住み慣れた地域での生活を支えるためのサービスです。認知症の方が少人数で共同生活するグループホームや、小規模多機能型居宅介護などが代表的です。
いずれのサービスも、利用者は費用の原則1割を自己負担します(収入に応じて2割または3割負担となるケースもあります)。残りは介護保険から給付されます。
人事担当者が知っておくべき実務的なポイント
介護保険は「個人の問題」と感じがちですが、会社の人事担当者にとっても無視できない制度です。保険料の徴収・納付という実務面はもちろん、社員が「介護と仕事の両立」に直面したときのサポートを考える立場にもあるからです。
まず、介護保険料の徴収開始タイミングを正確に把握しておく必要があります。社員が40歳になる月(誕生日の前日が属する月)から徴収を開始します。給与計算システムで自動的に処理される場合も、設定ミスがないか定期的に確認することが重要です。
育児・介護休業法では、介護を理由とした休業(介護休業)や短時間勤務制度の利用が認められています。社員から「親の介護が必要になった」という相談を受けたとき、介護休業制度の案内とあわせて、介護保険の要介護認定申請について必要な情報提供をするのも、人事担当者としての大切な対応です。要介護認定を受けていないと、利用できるサービスが限られてしまうため、早めに申請することを伝えることが社員の助けになります。
介護保険料は税法上、社会保険料控除の対象です。年末調整の際の取り扱いに迷う社員もいるため、給与明細の見方と合わせて、社内で情報共有しておくとよいでしょう。
「まだ先の話」では済まなくなる理由
日本の高齢化率は2025年時点で30%に迫っており、「介護」という問題は40代以上の多くの方にとってすでに現実の課題です。親御さんの介護に直面している社員は、どの職場にも確実に存在します。
介護保険制度を正しく理解していれば、いざというときに「どこに相談すればよいのか」「どんなサービスが使えるのか」を落ち着いて考えることができます。知識があるかないかで、判断の速さも精度も変わります。
社員の方は、40歳になったタイミングを「制度と向き合う機会」と捉えてみてください。人事担当者の方は、介護に関する相談が来る前に制度の概要を把握しておくことで、社員への適切なアドバイスが可能になります。
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